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アマゾン90年目の肖像=「緑の地獄」を「故郷」に=(12)=トメアスー唯一の私立初等学校

武田タケコ・ダルシー校長

 「地域に根ざした子弟教育に取り組む」ことを目的として、文協の敷地内にあった学生寮を改修し、2002年2月3日に「日系学校」が創立された。地方には珍しい私立校で、日本の小学生から高校生に相当する生徒が通っている。先生は8人、生徒は177人。生徒の62%が非日系人だ。
 「日系人の学校らしく時間厳守に力を入れている。私立にしては授業料も安いんですよ」。04年から校長職を務める武田タケコ・ダルシーさん(61、二世)が説明する。学費は月305~799レアル、教材費は450レアル。「ベレンの私立校では1年生でも890レアルの月謝がかかる」とのことなので、かなり安い金額だ。

日系人の学校らしく教室内にはマナーについての貼り紙

 ブラジルの公立校では1クラスの生徒数は45人までと決まっているが、同校では平均25人。1人1人に目が行き届いていると評判だ。指導要領をよく理解した上で授業に臨むなど、教育の質を大事にしている。
 同校では日本の教育手法を取り入れるために、今までJICAから現職教師のボランティアが3人派遣されてきた。当初は言葉の壁もあり、受入れ側も不慣れで授業を行うのも難しかったが、武田さんは「理科の実験や、体育にバスケに取り入れるなど、先生の得意教科などの持ち味を活かした試みを取り入れてきました」と振り返る。
 挨拶の習慣なども継続して行っているが、掃除の習慣は「両親から苦情がきて上手くいかなかった」という。生徒の過半数が非日系であり、その父兄からすると「掃除夫の仕事を子どもにさせた」となり、抵抗が強いようだ。ブラジルの文化や習慣に配慮しながら、日本の良い部分の段階的に取り入れることが重要なようだ。
 公立校とは異なり、課外授業にも力を入れている。午前中の授業が終わると、補習や課外活動を行う。先日帰国したJICAボランティアの伊藤早さんは、太鼓の演奏を導入し好評を得ている。今年は盆踊り大会で太鼓演奏を披露した。

増築した理科実験教室

 同校では過去3回にわたって草の根・人間の安全保障無償資金協力の支援を受けている。今年は90周年事業として、多目的教室や理科実験教室などの増築や顕微鏡などの機材の供与が行われ、2月8日には落成式が行われた。

90周年事業として学校を増築した際の記念プレート

 トメアスー郡でも90周年を祝い、ポルトガル語の作文コンクールのテーマを「日本人アマゾン移民90周年」とした。日系学校の生徒たちも、このコンクールに作品を提出している。
 今後について武田校長は、「幼児教育から大学教育までやりたい」との夢を語る。今後は設備を整え、郡内で全ての教育を受けられるように進める意向だ。(つづく、有馬亜季子記者)

 

 

 

 

□関連コラム□大耳小耳

 トメアスーの日系学校で今年6月まで活動していたJICAボランティアの伊藤早(さき)さんは、受入側の体制が整ってきたこともあり、とてもよく活動してくれたという。武田タケコ・ダルシー校長は、「彼女は太鼓の他にも、皆が元気に歌えるようにキーボードで校歌を弾いてくれた。また、生徒にピアニカやフルートを教え、皆で合奏もしていたんですよ」と笑う。次のJICAボランティアは8月から活動を開始している。今回も日本の良い部分をどんどん日系学校で教え、同地に根付かせてほしいもの。