【既報関連】ブラジルのボルソナロ大統領(社会自由党・PSL)は5日、下院が8月に承認した職権乱用防止法を裁可したが、それに際し、19の条文に記載された合計36の項目に拒否権を行使した。6日付現地各紙が報じている。
公務員の職権乱用を防ぐことを目的とした同法は第44条まである。基本的に、犯罪捜査の行き過ぎを防ぐため、警察、検事、裁判官の権利を制限し、禁固刑まで含む罰則を定めたものだ。
ただし、「捜査の行き過ぎを防ぐ」は建前で、一般的には「汚職疑惑議員たちが捜査権力を弱めるために成立させた」と評価されている。
セルジオ・モロ法相も大幅な拒否権行使を要請していたが、ラヴァ・ジャット作戦で捜査対象になったこともあるロドリゴ・マイア下院議長(民主党・DEM)は、「議会の立場や機能を尊重して欲しい。大統領の拒否権行使を議会が無効化することもあり得る」と語るなど、大統領の出方が注目されていた。
拒否された項目には、「逮捕者が逃走する恐れのないときは手錠をかけてはならない」、「法的不調和を理由に逮捕したり、逮捕者の釈放を拒んだりしてはならない」、「逮捕者を辱めてはならない」、「弁護士の権利を制限してはならない」などがある。
その他に、「職権乱用防止法違反者は公職を失う」「違法な手段で証拠を集めてはならない」、「おとり捜査の禁止」、「正当理由のない捜査禁止」、「調書閲覧拒否の禁止」も拒否された。
「逮捕者を辱めてはならない」や「正当な理由のない捜査禁止」などは成立して然るべきとの印象を与えるが、警察、検察を含む司法関係者は、「汚職容疑者の弁護士らが拡大解釈し、釈放、無罪、捜査の合法性の否定につながる」とし、拒否を求めていた。
5日にインターネット配信で拒否権行使を国民に告げた大統領は、「拒否は簡単ではなかった」と語り、モロ法相も、「拒否権は議会にも配慮しながら行使された。議員たちも理解してくれるはず」と語った。
「大統領は国民の声を聴いた。拒否権行使は国民の支持を得る」との声も議員からは出たが、「拒否項目が多すぎる」「全ての拒否を認めるのは無理」との声も出た。これら相反する意見は全て、大統領所属のPSLの議員たちのものだ。
議会は定数の過半数以上の票で拒否権を無効化できる。マイア議長は、先月から既に、“拒否の拒否”に向けて議会内をまとめている。
超党派のセントロンも法案推進派で、リーダー格のパウリーニョ・ダ・フォルサ下議(連帯)は「全ての拒否を無効化する」と語っている。
また、ダヴィ・アルコルンブレ上院議長(DEM)は、「議会を通った法案を大統領が裁可するか拒否するかは、政治の場なら当然起こり得る判断だ。民主主義のあり方としては普通」と語るにとどめた。