一口ほおばると、ぎゅっと詰まった旨味と炭火の香ばしさが広がる。そして、驚くほどのジューシーさ…。もう箸が止まらない。
炭火で焼き上げた身は肉厚で弾力があり、たっぷり脂が乗っている。これは肉ではない。タンバキの炭火焼きだ。
豪快に約30センチ、1キロ程の半身が大皿でどんと運ばれてくる。どんな味付けなのかと聞いてみたら、オーナーの坂口功治さん(70、福岡県)いわく、なんと「こだわりの塩」のみ。
「魚が旨味を出してくれるから、余計な手を加えず魅力を最大限引き出した。フェイジョアーダ、シュラスコもいいが、川魚もここで味わってもらえれば、外せないブラジル料理になる」と自信をのぞかせる。
日本人なら「魚料理は日本、そして海の魚だろう」と言うかもしれない。だがこのシンプルな炭火焼きは、常識を覆す逸品だ。
ここはサンパウロ市で川魚を存分に味わえるブラジルでも数少ない川魚料理店「ランショ・リオ・ドッセ(Rancho Rio Doce)」だ。メトロのアナ・ローザ駅から徒歩5~10分と近い。
以前から「ランショ・ダ・トライーラ(Rancho da Traíra)」との店名で、看板メニュー、トライーラ(雷魚)のフライや、10キロ以上になる巨大ピラルクーをバナナの葉で包み、じっくり炭火焼きにした豪快な料理などで有名だった。
幾度となくテレビ番組や新聞、雑誌で取り上げられてきた。それが昨年6月に名前を変えて再スタートし、さらなる進化に挑んでいる。
坂口さんが今回お勧めしてくれたのが、2つの新メニュー「ピラニアのぶつ切りカウデラーダ(鍋煮込み/Caldeirada de Piranha)」と、冒頭の「タンバキの炭火焼き(Costela de Tambaqui)」だ。
カウデラーダは、アマゾナス州都マナウスなどアマゾン河流域の郷土料理。同地ではタンバキなどの魚を煮込むことが多く、別の郷土料理でいうならムケッカに近い。坂口さんはそれにピラニアを頭から尾まで使い、アレンジを加えた。
記者が待つ食卓に、グツグツと煮え立つ鍋が運ばれてきた。付け合わせのご飯に熱々のスープとピラニアを乗せ、ピロン、ピメンタを和える。
口へ運ぶと、スープ全体にピラニアのだしが広がり、魚介の香りが鼻から抜ける。坂口さんは「ピラニアから出るエキスが隠し味」と言うが、隠し切れない濃厚な旨味だ。ジャガイモ、トマト、ニンジンにもスープがしみわたり、体を温める。意外にさっぱり食べられて、日本人にも好まれそうな一品だ。
これから暑くなる今、なぜ煮込み料理なのか。坂口さんは「年中暑いマナウスで、現地の人たちはこの鍋を食べている。だからお客さんにもマナウスの気分を味わってほしい。でもここは冷房がきいているから快適だよ」と笑顔で勧めた。
同店では川魚のフライや、大人数で楽しむ巨大ピラルクーの炭火焼きも楽しめる。これらがまた冷たいビールとの相性が最高。これ以上のつまみはちょっと望めない。
グループ向けの大皿料理を豊富に揃えているが、平日昼には1人向けの定食もある。
サンパウロ市でアマゾン河の美食を堪能できる「ランショ・リオ・ドッセ」。これからの季節、熱々の川魚料理にかぶりつきながら、気の置けない仲間や家族と冷たいビールをグビッとやりたいところだ。
「ランショ・リオ・ドッセ(Rancho Rio Doce)」
・住所
Rua Machado de Assis 556 – Vila Mariana
・電話
11・5571・3051
・営業時間
▼昼
月~金曜日 正午~午後3時
土曜日 正午~午後4時
日曜・祝日 正午~午後5時
▼夜
火~木曜日 午後6~11時
金・土曜日 午後7~午前0時
(月・日曜・祝日は夜の営業なし)