ホーム | コラム | 樹海 | ジャノーは自叙伝で何をしたかったのか?

ジャノーは自叙伝で何をしたかったのか?

検察庁長官時代のジャノー氏(Lula Marques)

 「全くもって、意味も狙いもわからない」。コラム子がそう言わずにいられないのが、元検察庁長官(2013~17年)のロドリゴ・ジャノー氏の自叙伝「ナーダ・メーノス・ケ・トゥード」だ▼9月下旬発売と言われつつ、まだ書店では見ないが、少なくともPDF版がマスコミには一斉に流れてて、それを元にすでにかなりの報道もなされている。マスコミが最も飛びついたのが「最高裁のジウマール・メンデス判事への暗殺未遂の告白」であり、ブラジル中が仰天した▼ラヴァ・ジャット作戦をはじめ、ブラジルの犯罪を取り締まる組織の長を務めていた時代に、銃を持って最高裁の中に入り、個人的な恨みで判事を殺そうとした。ラヴァ・ジャットLJ)作戦が世間で最も尊敬されていた時代にそのようなことを考えていたという告白は、ジャノー氏のみならず、ラヴァ・ジャットのイメージを貶めるものとなった▼それだけではない。この自叙伝の記述からは他にも「セルジオ・モロ(当時LJ担当判事、現法相)はエドゥアルド・クーニャ氏(当時下院議長。現在、収賄容疑有罪で服役中)への捜査を嫌がった」「デウタン・ダラグノルLJ捜査班主任から〝ルーラ氏を犯罪計画の主犯として告発しろ〟と迫られた」など、検察庁を退職した身とはいえ、あきらかにLJに不利になる発言を行なっている▼皮肉なことに、これらの発言は、「ジ・インターセプト・ブラジル」による「ヴァザ・ジャット」報道でモロ氏とダラグノル氏にかけられた、ハッキングされた携帯電話での会話内容の疑惑が正しかったことを裏付ける証言にさえなってしまっている。これでは、ヴァザ・ジャット報道を機に、これまでのLJ作戦の裁判の見直しを議論する最高裁の後押しにしかならない▼さらにジャノー氏は「テメル元大統領は、クーニャ氏の捜査をお蔵入りさせるよう、私に迫った」「アエシオ・ネーヴェス氏は2017年に〝次の大統領選で私の副候補にならないか〟と誘ってきた」ことも暴露している。もし仮に、これらが本当なら、それはきっとジャノー氏にとってはかなり不快なものだったのだろう。ジャノー氏は17年4月、JBSショックの際に、この両者を現行犯逮捕しかねない勢いで厳しい捜査を行なっている▼「LJ作戦の信用性を失わせる」「テメル氏とアエシオ氏の悪事を暴露する」などということになると、これはルーラ元大統領をはじめとした、労働者党(PT)にとっては有利な内容ではある。実際、ジャノー氏が当時のジウマ大統領に指名された事実をはじめ、親PT派であるという説は、在任中から流れていた。著書の発売に際して行なわれたインタビューでも「ルーラ氏は汚職をしていたと思うが、ジマ氏にそれはなかった」との発言も行なっている▼そう考えると、今回のジャノー氏の著書は「検察庁のトップから見た、ジウマ氏罷免前後のLJの内幕」と呼べるものかもしれない。だが、仮にそうなら、メンデス判事暗殺未遂という、それだけで一気に全体の信用性が失われるエピソードは暴露しない方が絶対に良かったのではと思う。皮肉にもルーラ氏の弁護側は、ジャノー氏の「暗殺未遂の異常性」をもって、ルーラ氏の容疑の無効性を主張しはじめている。(陽)