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ガンの治療に新たな道

 末期リンパ腫で痛み止めのモルヒネを毎日、上限量まで使い、体重が激減して、自分では歩けなかった患者がある日、痛みが消え、歩けるようになった▼先週からこんな風に話題となっているのは、サンパウロ州リベイロン・プレットのサンパウロ総合大学血液センターでラ米初のCAR―T細胞療法を受けた、ミナス・ジェライス州ベロ・オリゾンテ市に住む公務員のルイス・カストロ氏(62)だ。同氏は17年以降、化学療法や放射線療法、免疫療法を試したが、期待した結果は得られなかった。症状が進み、死の恐怖にも直面していた同氏を救ったのがCAR―T細胞療法だ▼通常の免疫機能だけでは完全に死滅させるのが困難なガン治療のために開発されたこの療法。遺伝子学を駆使し、血液から取り出したT細胞(リンパ球の一種)を、ガン細胞などの表面に発現する特定の抗原を認識して攻撃するCAR(キメラ抗原受容体)―T細胞に改変。十分な数まで培養後に体内に戻されたCAR―T細胞は、ガン細胞の表面に取り付き、死滅させる▼治療後のカストロ氏はモルヒネも不要となり、自力で歩けるようになった上、腫瘍を示す黒い影も激減。CAR―T細胞投与前には、体がこの細胞を受け入れやすくするためのリンパ球除去が必要で、ある程度の副作用も起きる。だが、これまでの苦しみを見てきた妻が「信じ難い」という変化は、たった1回の細胞投与で起きた▼今後はトモグラフィーで治療結果を確認後、5年の観察期間を経て、完治したかの正式判断が下る。死の恐怖や痛みから解放され、自分の足で歩いて帰宅する喜びはいかばかりか。医師達のたゆまぬ研究と、父親を救わんとする息子の熱意がカストロ氏の命を救った。(み)