トメアスーでの90周年式典後、バスで5時間以上かけてベレンのホテル「サグレス」へ戻った。午後9時に近く、一行はホテルのレストランで遅い夕食を取った。
「この方はドイツ語の読み書きができるんですよ」。一緒の机で食事をしていた宮坂夫妻が、兼松プリニオさん(81、二世)のことをそう紹介した。兼松さんは、「ドイツ系の会社で働いていたから仕方なく覚えたんだよ」と照れながら答える。
兼松さんは、ドイツ系の会社で経理を担当していた。当然ながらドイツ語を使う機会も多く、「経理の用語はドイツ語で覚えた。ドイツ語学校にも通って、必死に学んだよ。クビになりたくなかったからね」と笑う。
日本人が多いマリリア出身の兼松さんは、日本語もペラペラだ。「読み書きはあまりできないんだ」と謙遜するが、「廃刊になったけど、サンパウロ新聞を購読していた」と話すように、難しい漢字も読める。ちなみに語学自体が得意なようで、他にも「英語、ラテン語も分かる」と教えてくれた。
故郷巡りに参加し始めたのは2年前で、妻が亡くなったことがきっかけだった。「妻は12歳で渡伯し、アマパーに入植した。でも妻の父親は弁護士だったから、直径2~3メートルの木を倒す仕事はきつかったらしい。他にも病気になったり大変で、1年半で逃げて飛び出してきたと聞いている」と過酷だった様子。
兼松さんはアマゾンに初めて来たが、「妻が最初に来たアマパーにも近いし、来て良かった」と嬉しそうに語る。故郷巡りは、兼松さんのように伴侶を亡くしてから一人で参加する人も多い。自分と同じように苦労してきた日本人が集まるため、気兼ねなく参加できるのだろう。これもこのツアーの一つの魅力なのかもしれない。
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14日朝、一行はエスタソン・ダス・ドッカスの横にある「ヴェル・オ・ペーソ市場」を訪れた。パラー州の中でも巨大な市場として有名で、2015年には日伯就航通称航海条約締結120周年でご来伯された、秋篠宮両殿下がお立ち寄りになった。
ガイドのダラさんが「『Ver o peso』は、『量りを見る』という意味。昔ここでは量り売りをしていて、今でもその名残が残っています」と説明する。ちなみに、「政府の人たちがここで集まって、税金としてお金を奪っていく場所」でもあったそうだ。
ここでは、アマゾンの魚、民芸品、農産物、薬草類などを販売する店が軒を連ねている。両殿下が訪れた時は、お二人が自然環境や動物等に深い造詣を持たれていることもあり、熱心に視察されたという。
一行も物珍しそうに市場を見学した。1日1粒食べるとガン予防になるという噂のカスターニャ・ド・パラー、世界最大の淡水魚で1億年前から姿が変わらないという「生きた化石」ピラルクーの天然物など、どれもサンパウロで手に入りにくい物ばかり。
思い思いに見学した一行は、限られた時間での買い物を楽しんだ。(つづく、有馬亜季子記者)