「日本の海で生まれ、同じ海を通して私たちの心にたどり着いた『江差追分』の普及に貢献し、永続させていきたい」――江差追分ブラジル支部の馬欠場哲巨支部長は、そう力強く宣言した。「江差追分会ブラジル支部30周年記念式典」(久保田紀世実行委員長)が今月17日夜、北海道交流センターで開催され、約60人の民謡愛好家らが出席した。照井誉之助(よのすけ)団長をはじめ、日本からは6人の慶祝団が来伯。会場では至る場面で民謡が歌われた他、慶祝団によるショーも行われるなど、温かく笑いの絶えない時間となった。
来伯した慶祝団メンバーは、江差追分会会長で江差町の照井町長、同会の国仙敏孝事務局次長、民謡歌手の寺島絵里佳さん、日和義貴さん、尺八奏者の田村壮成さん、小野美香さん。
司会は藤瀬圭子さんが務め、久保田実行委員長による挨拶後、馬欠場支部長は「江差追分は、佐々木基晴師匠の直弟である石川諭さんによって普及され、この素晴らしい文化を継承し続けている」と歴史に言及した。
当日早朝に到着した照井団長は、疲れを感じさせない笑顔で「江差追分のルーツは、本州から北海道を目指した北前船の船頭や船乗りたちが歌ったもの」と起源を語り、「故郷に思いを馳せる気持ちは、ブラジルの日系人と相通ずる物があるのでは。望郷の思いを乗せて40、50年と続けてほしい」と当地の民謡愛好家らを激励した。
来賓の北海道文化福祉協会・馬場光男副会長は「自分のような北海道出身者には、民謡といえば江差追分。故郷を想うこの歌を聴くと涙が出てくる」と語った。19歳で渡伯した馬場さんは、この歌に励まされることもあったという。
野村アウレリオ市議の代理として清水オリジオさんから同支部に表彰状が授与された。同支部からは創立者の石川さん、第1回大会から参加している有熊茂さん、第1回大会から司会を担当する藤瀬さんへ表彰プレートが手渡された他、慶祝団へ記念品が贈呈された。
ケーキカットの後、照井団長が乾杯の音頭を取り、晩餐会と慶祝団によるショーが始まった。様々な郷土民謡が披露され、昨年NHKの『民謡魂 ふるさとの唄』に出演した、江差追分全国大会の第41回優勝者の寺島さんと第47回優勝者の日和さんが中心となり歌声を響かせた。寺島さんは息のあった合いの手や手拍子に、「こんな賑やかなのは初めて」と驚いていた。
今年の「第31回江差追分ブラジル大会」で優勝し、日本の全国大会に出場したグラウコ・ハデスさん(21、四世)が飛び入りで「灘の酒造り唄」を熱唱。独特の節回しと思いのこもった歌声に歓声が上がった。
江差追分を始めたのは3年前だが、全国大会で聴いた照井団長は「彼が歌った時拍手が起こった。とても上手で、初めて受けた江差追分格3級を取得していた。まず有り得ない程すごいんですよ」と絶賛していた。
慶祝団一行は、18日にブラジルの民族音楽グループ「MAWACA」のスタジオで同グループと慶祝団が共演。19日には秋田県人会館で、午前10時から江差追分、三味線伴奏、尺八伴奏のワークショップを行う。
20日午後2時からはMASPで記念公演「夢海(むかい)」を開催。慶祝団を中心に当地の会員も加わり、民謡15曲を歌う予定だ。
19日のワークショップは50レアル、弁当代30レアル。20日の記念公演のチケットは60レアル。チケットの購入、問い合わせは久保田副支部長(12・98149・1996)まで。
□関連コラム□大耳小耳
江差追分ブラジル大会に第1回目から参加している有熊茂さん(80、山口県)は、「実は江差追分は大嫌いだった」と意外な過去を披露。「お坊さんがお経を上げるみたい」という第一印象だったが、尺八の師匠が江差追分を始めたことをきっかけに自分も歌うように。今では「難しい曲にぶつかっていくのが良い」と言い、2016年には優勝し、日本の全国大会に出場した程ハマった。「民謡の王様」と言われるだけに、面白さを知ると辞められない!?
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ここ何年か民謡を嗜む非日系人が増えている。江差追分会ブラジル支部の式典に参加していたイタリア系ブラジル人のニーナ・デ・マルコさん(29)は、ロックでも歌い出しそうな格好だが、「子どもの頃から聴いていた。日本の民謡が大好き」とすっかり魅力にハマってしまっている。今は三味線を演奏し、今後は尺八をやってみたいとか。慶祝団が江差追分を披露すると「感動しちゃったわ。なんて綺麗な歌声なの!」と大興奮で録音もしていた。次に大会で優勝するのは彼女かも!?