臣道聯盟の幹部だった渡真利成一は必要があれば、負け組をつぶすようにと聯盟支部に内密に指示していた。「行動者の手引き」と題した本人制作のパンフレットには次のように記載されている。
「その機会が来たときには、悪党で国賊のリーダー抹殺を実行する組織を作ること。また、自分の過ちに気付かず、ましてや後悔しない人間をこの世から除去すること」と支部に伝達していた。
この意に沿って、一部の聯盟支部は狙撃や暗殺を実行するグループを作った。
軍国主義盛んだった1930年代、日本陸軍が組織した特別隊や過激右派の組織から名前を取った。「実施隊」、「推進隊」「推進部決死隊」「特行隊(特攻隊)」「国粋隊」「天誅組」といった名前だった。
4月はじめ、このような名のグループが古谷重綱を襲撃、野村忠三郎を殺害、宮腰千葉太を襲ったが失敗に終った。
その2ヵ月のち、報道機関がプロの殺人者と呼ぶ、世間に名を広めた特行隊の一人が退役軍人脇山甚作を殺害するよう命令を受けた。脇山は臣道聯盟のリーダー、吉川順治の親友でいっしょに渡伯した。脇山は中央産業組合の理事で、日本人間に配布された終戦を明らかにするための書状に署名していた。彼の家に着くと、夫人に家に入るよう言われた。脇山が現れると、「自決の進め」と書かれた用紙と、切腹に使う短刀を渡した。
三原せいじろう元新聞記者の記事によると、脇山に渡された「自殺の進めと死の宣告」には臣道聯盟の意向が書かれていた。「3000年の歴史を誇る日本大帝国は世界に類をみない天皇により司られた神聖な国である。国の組織は太陽と同じように永遠に存在し続ける」と書かれ、終戦については「昭和20年(1945年)8月15日、狂暴で、極悪な敵はわが国の正当な根拠に基づき、無条件の平和条約を申し出た。この勝利はわが天皇の神聖、帝国軍の将校、兵士の忠義、そして、1億の臣民の底力によるものだ。
だが、同日、ラジオと新聞は偽の情報をながした。その情報によると、日本は無条件降伏したという。その情報でブラジルの日系社会は真っ二つに分れた。一方は真の日本精神に基づき、天皇の神聖を信じ永遠なる日本の存在を信じる者たち、そして、他方は敵国の偽情報を信じ、敗戦を言い広げる者たち。
この分裂により2000人の同胞が警察により検挙され、妻や子どもたちを路頭に迷わせた。一体、だれに責任があるのか? 敵国の偽情報に踊らされ、わが国の敗戦を言いふらした人間にあるのではないか?」
「脇山は敗戦の情報に署名したことで、帝国軍の誉れ高い忠実な尊厳に背いたことになる」つづいて判決が言い渡された。
「国を裏切ったことは万死に価する。また、処罰は帝国軍人として、戦士の誉れである自決を許す」というものだった。
「自分は国賊ではない。だから自決などしない。愛国者として名誉ある死を選ぶ」と答え、銃に撃たれて死んだ。そして、4人の犯人は警察に出頭した。これが、日系社会に起きた連続殺人のはじまりだった。
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