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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(161)

 「全ての団体は日本の勝利を誇りとしていた。ほとんど無教養な者たちの日本人社会に勝利の情報が受け入れられるのは当然だった。
 これら団体の広報は奥地へ向けた大量の謄写版印刷、あるいはカーボン紙使用の手書きのパンフレットによるものだった。臣道聯盟は会員数をはるかに超える10万人に向けて戦勝を伝えるパンフレットをばら撒いた。それには偽の情報、重要な部分を削除したり、説明を省いたものが数えきれないほどあり、矯正された写真が載せられていた。
 また、パンフレットにはブラジルとの平和条約を結ぶため、近く日本の戦艦が政府の特派員を乗せて入港する。軍艦の帰途にあたり、母国に帰りたい臣民があれば、それを許すとあった。
 この疑わしい情報とキャンペーンは移民たちに動揺をあたえ、そのご、乗船準備のため大勢の人間が農村から町に向って移るという結果を招いた。
 奥パウリスタの町々では黄色い群集が鞄や旅行用品を買いあさった」

 つづいて署長は日系社会の「知識人・認識組」の宮腰千葉太と古谷重綱の役割についてふれた。彼等は秘密警察およびDOPSの承諾を得て、日本降伏の終戦詔書に基づき、同胞に終戦を納得させるために尽くしたと報告した。

 また、国粋主義者の活動が増大しバストスの溝部幾太が暗殺されたこと。臣道聯盟のテロ行為を実践するため、特別隊が構成されたこと。古谷重綱の殺人未遂、野村忠三郎の暗殺のこと。事件に関する調査および処置がとられたこと。犯人の取調べを行なったこと。
 この結果、吉川順治をはじめとする80人の日本人秘密組織の活動によるものであることが完全に証明された。彼らはブラジルで反政府活動を行う外国人をとりしまる法令383号に基づき、外務大臣、大統領の判断で国外追放を実行するよう報告した。
 正輝やアララクァーラの仲間たちをふくむ残りの390人についてだが、そのリストにホテル経営者有田博夫マリオの名がなかった。日本の放送を仲間たちと聞いていたラジオの持ち主だ。理由は「ブラジル国籍の子弟のある者」だが、他の検挙者にもそれは通用する。そこで彼らを国外追放するために署長は新しい法令が必要だと考えた。
 署長にとって、警察の取り調べで有罪は確かなのだ。
 国の治安を維持するための1938年5月18日発令、法律431号にあたるのではないか?
 その証拠として、署長は「秘密組織、臣道聯盟の要理33号」を挙げた。この書の作者である渡真利誠一の家宅捜索で押収されたものだ。ある箇所に「時期を見計らったうえ、特別部隊を組織し、悪人を殺害し、彼らの活動に終止符を打つこと」―ここでいう悪人とは母国を捨て、祖国愛をなくした者、つまり、あやまった指導者や告発者を指している。
 次いで、署長はこれら秘密組織、臣道聯盟の悪名高き書類は偏屈者の渡真利誠一の病的な発想から生まれたことを証明した。渡真利誠一は連盟の事実上の統率者で、会長である陸軍退役軍人吉川順治の代理役を担っていた。署長はテロ行為の実行犯の証言から、上部からの支持で自分たちが臣道聯盟の会員だったことを隠していたことを明らかにした。