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「軍政に密告されたかも」=国内きっての人気作家が「ブラジルのロックの父」の裏切り疑惑告白

話題のラウル・セイシャスの最新研究本の表紙

 「アルケミスト」「ベロニカは死ぬことにした」などで世界的に知られるブラジルの人気小説家パウロ・コエーリョが23日、同国の「ロックの父」とも呼ばれる、1970年代の伝説のロック歌手、ラウル・セイシャスから裏切り行為にあっていた疑惑をツイッターで告白した。
 コエーリョが人気作家となったのは1980年代後半で、それ以前の1970年代は、当時一世を風靡していたセイシャスの作詞家として名をはせていた。代表曲の「アル・カポネ」「ジータ」「ソシエダーデ・アウテルナチーヴァ」など、最盛期の1973~74年のヒット曲はコエーリョの歌詞によるものだ。
 ところが、コエーリョは1974年に軍事政権の秘密警察に逮捕され、短期間の間だが投獄されてしまう。
 それ以降、セイシャスとはたまに共作の機会はあったものの、セイシャスがアルコール過剰摂取に伴う心臓発作で突然死するまで、以前のような親密な関係には戻らなかった。
 その後、コエーリョはセイシャスについて積極的に語ってはこなかった。だが、今回、語らなければならない事情が生じた。
 それは、セイシャスについての新たな研究本が来月1日に発売されるからだ。ジョタベー・メデイロスというジャーナリストが書いた「ノン・ジガ・ケ・ア・カンソン・エスタ・ペルジーダ(曲が失われたなどと言うな)」によると、秘密警察の書類に、セイシャスの仲介により、反政府的な歌詞を書いた張本人としてコエーリョが逮捕されたことをうかがわせる記述があり、コエーリョは所属さえしていなかった反体制派の政党の活動家とみなされていたことも明らかだという。
 それによると、セイシャスは1974年5月に秘密警察から呼び出され、二人の共作で当時流行っていた曲の内容について訊かれたが、「曲そのものより、このような歌詞を書いた人物の方が危険だ」と判断した秘密警察が、作詞者のコエーリョを連れてくるようもとめたようだ。
 セイシャスはその日の内にコエーリョを連れて秘密警察に出頭。セイシャスは30分ほどで出てきたが、その後に呼ばれたコエーリョはそのまま留置された。また、コエーリョのアパートの家宅捜索に向かった警察が彼の恋人を逮捕。二人は翌日釈放されたが、その直後にコエーリョがセイシャスとタクシーを拾ったところ、警察に捕まった。その時もコエーリョだけが見知らぬところに連行され、2週間の間、拷問を受けたという。
 この当時、コエーリョとセイシャスはヒットを出したばかりで仲は良好なはずだったが、この事件後、セイシャスは1年間、コエーリョを避けたという。
 コエーリョは23日にツイッターで、「45年間黙っていた。胸にたたんだまま、墓まで持って行こうと思っていた」との言葉を添え、この本のことを紹介した。
 コエーリョは「自分は書類を見ただけだから」として断定は避けたが、「(書類を見た時は)自分が裏切られ、放り出された気がした」という。コエーリョは「過ぎ去った水は水車を回さない」という意味深な表現も使っている。(23日付フォーリャ紙、G1サイトなどより)