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江差追分30周年記念公演「夢海」=異国の地で生きる『魂の唄』=MASPで300人が聴き入る

来伯した民謡歌手ら一行

 江差追分会ブラジル支部(馬欠場哲巨支部長)の創立30周年記念公演「夢海(むかい)」が、今月20日午後2時からパウリスタ大通りのMASPで開催され、入場料60レアルにも関わらず、約300人の観客が詰めかけた。日本人・日系人だけでなく、日本文化が好きなブラジル人も多く訪れ、美しい音色に聴き入った。
 冒頭、江差町の照井誉之助(よのすけ)町長は、ポルトガル語で挨拶を披露しつつ、「江差追分は、北海道に新生活を求めて渡った人たちの悲しさや苦しみから生まれた歌。我々の町では『魂の唄』と呼んでいます」と歌の心を説明した。
 真っ暗な舞台に民謡歌手の寺島絵里佳さん、日和義貴さん、尺八奏者の田村壮成さん、三味線奏者の小野美香さんがスポットライトを浴びて登場。静寂の中で、尺八と三味線による伴奏が始まると、独特の節回しで歌がかぶさった。
 小野さんの「ソイッ」という掛け声が響き渡り、波のように同じ音が繰り返される。マイクに両手を添えて微動だにせず静かに歌う寺島さんと、表情豊かに緩急を付けて鮮やかに歌う日和さんの対象的な歌声が交互に響く。
 2人が「連れて行く気は 山々なれどネー 女通さぬ 場所がある」と歌った歌詞は、荒波の難所である忍路高島まで男性について行きたくても行けない、女性の嘆きを表している。その哀愁漂う歌声は、観客の胸の奥深くまで届いた。
 続いて海藤洋平さんによる大太鼓のソロ演奏が力強く鳴り響き、「灘の酒造り唄」、「道南口説き節」、三味線奏者11人による「津軽じょんがら節」などと続いた。
 寺島さんの故郷の唄「江差馬子唄」、日和さんの故郷の唄「十勝馬唄」を歌った後、突然、今までと違った曲調でアフリカルーツのブラジル踊り「トゥケ・デ・ウンバンダ」が披露された。
 舞台プロデュースを担った久保田紀世さんによれば、この曲順は安永幸柄さんにより考えられた。「今回の演出は、日系人のアイデンティティがテーマ。日本で苦労して働いた場面から、海を越えてブラジルに渡り、故郷を思いながら、力を合わせて生きてきたことを表している」と説明する。
 若手日本舞踊団「優美」やパラダ太鼓なども共演し、観客も巻き込み一体となって「炭坑節」を披露。日和さんの指揮で江差追分会ブラジル支部による「江差追分」が唱和され、最後は全員の掛け声とともに「ソーラン節」を力強く歌い、幕を閉じた。

エリアナ・バルボーザさん

 来場したエリアナ・バルボーザさん(64)は「娘が民謡を歌っているので来たの」と語る。民謡歌手の歌声を「とても素晴らしくて感動した。ソーラン節も聴いたことがあるので、一緒にお囃子をやったわ」と興奮気味に語る。

エノキ・ガブリエルさん

 日本文化が大好きだというエノキ・ガブリエルさん(25)は、グループ民のフェイスブックページで公演を知った。「日本の民謡歌手の歌はプロフェッショナルで、とても好きになった。特にソーラン節と津軽じょんから節が良かった」と満足気に笑った。