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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(165)

 結局、その間、23人の死人、86人の負傷者、合計109人だが、その内訳は66人が認識組、43人が勝ち組となる。43人の勝ち組のうち、40人が6月末のオズワルド・クルスの事件のときに殺害されている。殺害、あるいは殺害未遂の加害者リストには45人の名が挙げられた。中館ジョージ調査員の意見でこれら45名はテロリストだと指摘されている。
 しかし、情報機関の間では当時警察により検挙された者は全てテロリスタと見なしていた。何百人、何千人がテロリスタなのだ。
 エリーゼオス宮殿の会合の前日の、1946年7月20日のガゼッタ新聞には「日本のテロリズム」と題して、次のような記事が掲載された。

 「前政権の怠慢により、わが国土発展に貢献させるための労働者のグループを構成するなどという錯覚のもとにブラジルは移民を導入したが、それが裏目に出た。
 自尊心の高い、好ましくない黄色移民は犯罪を起こす可能性があった。悪人で、危険きわまりなく、同化不能で、この国にそぐわない政策を唱え、そのあげく、受け入れ国の法律を犯し、白日の下で、悪業を重ねる。大胆で、反抗的で、野獣のような残忍な犯罪に走り、秘密組織に属して、組織が命じるままに、暗殺をくりかえす。この地に、秘密組織を作り、お互い殺傷しあっている。
 もし、いまだにサンパウロ州政府がテロリストと白状した者たちを検挙していないなら、即座になすべきだ。それがなければ、世論が大騒動を巻き起こすであろう。
 これらの裏切者たちには寛容など無用。危険は我々に迫っている。そう、そのとおりだ。もし、領土拡張主義の天皇がアメリカ合衆国に負けたとでも言おうものなら、我々は死を宣告される。
 そこいら中で黄色いやつらは、勇気でもあるように大声で叫んでいるが、野蛮で、冷酷で、最も凶悪な計画的殺人を予告しているだけなのだ。ブラジルを犯罪者の逃避地にしようとし、犯罪をくり広げている者たちを一時も早くわが国から追放すべきだ」

 このような新聞社の攻撃的見解はブラジル社会に大きな影響をもたらした。
 1日だけで3人もの殺害者が出たトゥッパンでは裁判官、検事、市長、商業組合会長などが署名した電報を大統領、軍部大臣、法務大臣、連邦議会会長、サンパウロ州知事に発信した。その内容は「日本人テロリストによる新たな攻撃の危機に対し、保安のためすみやかに対策を望む。市民の反応がつよまり、このままでは日系組織の極悪な計画を阻止するために殺害行為がさらに広がることになる。ただちに日本人収容所をもうけ、望ましくない人物には国外追放を言い渡すべきだ」というものだった。この要請文を書いたひとりは裁判官だった。
 日本人移民の犯罪に対し、政府も強い反応を示した。1945年末、ヴァルガスが退き、新国家体制の独裁政権のあと、新しくエウリッコ・ガスパール・ドウトゥラ元帥が大統領に選ばれ、新憲法制定議会で審議が行われた。
 議会の反日派リーダーのミゲル・コウト・フィーリョは1946年8月7日、国会で発言した。1934年発布の前憲法について「日本政府高官はブラジルの権威を冒すような攻撃的な脅しをしつづけた。その高慢な態度を拒否するために日本移民の削減令を提出、賛成146票、反対41表という大差で可決された」と述べた。