10日に起こったエヴォ・モラレス氏を大統領辞任に追い込んだ、ボリビアのただならぬ異様な雰囲気に包まれたプロテストに、コラム子は戦慄を覚えた。ものすごく怖い思いをした▼今回のプロテストは、当初はエヴォ氏に不利なように思えた。それは同氏が、同国の定める憲法の改憲に失敗したまま、強引に4選目を狙い、そこで選挙違反の疑惑があがってしまったからだ▼だが、だからと言って、大統領の親類や味方の知事の家を焼き、同氏を支持する女性市長の髪を強制的に切って赤いペンキをかけて市内をさらし者にして歩き、放送局になぐり込んで脅しを掛けたり、ブラックブロックスもどきの謎の風貌の男が選挙裁判所の所長と副所長を強制連行したり、ついには軍が大統領の辞任勧告を行なうといった行為は果たして正常なのだろうか▼近い時期にエクアドルやチリでも暴動が起き、街をやきうちにしたり、国会になぐりこみをかけたりはした。だが、彼らが大統領や閣僚の家を襲撃したり、軍を使って威嚇するように辞任を迫ったなどという話はない▼さらに言ってしまえば、いくら在任期間が長かったとは言え、エヴォ氏の場合、過去3回の選挙はいずれも一次選挙で当選し、2選、3選目のときは60%以上の支持率だ。社会主義的な政権とは言え、経済成長を着実に続け、貧困率も60%台から30%台に激減させていた。今回の選挙も不正が指摘されたとは言え、支持率でトップを走っていたことに変わりはない。反体制派が主張するように「独裁政権」と呼ぶのはいささか無理があるような気もする▼今回の国際的な報道では、反体制派のリーダー、ルイス・フェルナンド・カマチョ氏らが聖書の前でひざまずく儀式めいたことをやる姿や、反体制派が「左翼たちを狩りに行くぞ」と快哉を上げる姿、さらに軍がエヴォ氏と同じ先住民の手を後ろに組んだままひざまずかせる映像も次々と紹介されている。「エヴォたちの側だって暴力を」という反論もあるかとは思うが、仮にそれがあったとしても、度を越した行為であることには変わりはない▼「あの平和そうに見えたボリビアでなぜこんなことが」。コラム子にはそれがショックだった。ただ逆にこうも思った。「これまでがなまじ満足だったがために、いざ不満が芽生えたときに、憎悪を煽る新たな風潮への免疫が低かったのか」と。まるで、どこかの国のような話ではあるのだが▼そして気になってボリビアの歴史を調べてみたのだが、そこで目からうろこが落ちるようなことを知った。それはこの国が、かの南米の戦う左翼の伝説的象徴、チェ・ゲバラが命を落とした国だったことだ。その事実だけで、「ああ、なるほど」と思いはしたのだが、さらに、「ゲバラを殺害した、1967年当時のボリビア軍事政権に元ナチスの軍人が絡んでいた」と聞いてさらに驚いた▼その人物はクラウス・バルビー氏で、「リヨンの虐殺者」の異名もとったナチスの親衛隊長だ。第2次大戦後に国外逃亡を図り、1951年にボリビアに亡命。同国の軍事政権時代(1964~82年)には治安アドバイザーをつとめ、軍政の終わる82年まで、実に30年を超え、この国で生活していたのだ▼「ファシズム的な種なら、ボリビアにはすでに潜在していた」ということなのか。それが、ふとした瞬間に覚醒し、爆発したということなのだろうか。そう考えると、恐ろしい怪物を目覚めさせてしまったなとも思うのだが。(陽)