「日伯関係はすでに親密だが、さらに絆を強める余地がある」――山田彰駐ブラジル日本国特命全権大使は11日夜にサンパウロ市のジャパンハウスで開催されたポルトガル語講演会「我が国の外交政策(日ブラジル関係半世紀と今後の展望)」で、約100人の熱心な聴講者の前でそのように熱く語った。
「ボルソナロ大統領は今年1月に就任して以来、3回も安倍総理と会談している。1月、6月、10月と両国トップがこんなに頻繁に会談するのはごく珍しい」と日伯関係の深まりを強調した。ジウマ政権(PT)時代には2度も訪日直前にキャンセルしたことすらあった。
2014年に安倍総理は来伯時のスピーチで『プログレジール(進歩する)・ジュントス』『リデラール(導く)・ジュントス』『インスピラール(発想する)・ジュントス』という3理念を提案したことをふり返り、日伯が対等で共に発展する方針を改めて確認した。
その過去の例としてセラード開発をとりあげ、「世界の農業開発に残る大プロジェクト、成功例」と位置づけた。
労働者党(PT)政権の間ずっと交渉が止まっていた「メルコスルEU貿易協定」が、今年6月に基本合意に達したことを受け、「ブラジル経済が回復すれば投資が戻って来る。今年日本からソフトバンクが210億レアルのラ米基金を作り、トヨタが10億レアルの投資を発表した。日伯間の経済関係は深まりつつある。メルコスル日本EPA締結開始のための手続きが、早く始まることに期待する」と語った。
またブラジルに豊富にあり、日本の技術力をもってすれば採掘可能な資源として、ニオブとグラフェンを挙げた。ニオブはコンデンサー陽極に適した素材として知られ、グラフェンも軽い上に薄くて強靱な素材として知られている。この件は、10月にボルソナロ大統領が訪日した際も話題に上がったとブラジル国内紙に報じられている。
ブラジルが期待する経済協力開発機構(OECD)入りに関しても「道のりは長いかもしれないが、日本は強く支持する」と表明。OECDは別名「先進国クラブ」とも呼ばれる組織で、ボルソナロ大統領はトランプ米大統領に加盟協力を懇願している。
日本、ドイツ、インド、ブラジルは、国際連合安全保障理事会の常任理事国入りをお互いに支持することで合意した「G4」を結成している。これに関しても「現実問題として日伯は意見が異なることも多い。だが、お互いが重要な国だと考えていることが大事。民主主義などの基本的な価値観は共通しているから、交渉によって折り合いをつけながら協力関係を深めていける」と語った。
質疑応答で、サンパウロ州調査研究支援機関(Fapesp)の経営技術審議会のカルロス・パシェコ会長は大学間の学術交流の振興策を、平野オストン氏は日伯経済関係を深める具体的なポイントなどを質問した。
来場者で、ESPM大学で国際関係学を教える上原アレシャンドレ教授に感想を尋ねると、「山田大使は『自由で開かれたインド太平洋戦略』の推進に関してもブラジルと一緒にやっていくと話していたのが興味深かった。ブラジルにとってもペルシャ湾のホルムズ海峡は地政学的に重要な場所。世界の多くの国も同じだ」と頷いた。
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山田彰大使は講演の中で、スポーツ分野に関しても「リオ五輪の次が東京五輪という深い関係がある。サッカーや柔道をはじめ、繋がりが大変強い分野だ。ぜひ来年のサッカー決勝戦で、日伯対決の場面を見てみたい」と語ると、会場からは歓声が上がった。日本サッカーは90年代にジーコを始め多くのブラジル選手が活躍したことで、盛り上がって来た経緯がある。いわば日本の「師匠」「大先輩」だ。それが決勝戦で対決するとなれば、まさに“対等な関係”になったことを象徴する場面か。