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愛読者の皆さまに感謝の一年!

 2019年は読者の皆さんにとって、どんな年だっただろうか?
 昨年末にサンパウロ新聞が廃刊したことの余波が、繰り返す波のようにいろいろな場面で押し寄せてきた。取材依頼が例年以上に多いと感じたのは、その一例だ。
 年明けに400人ほどのサ紙読者が弊紙に移ってきてくれた。別の新聞を読むという決断は、読者にとって大きな、重いものだと承知している。心から感謝したい。
 サ紙読者の多くは購読料を年末年始に払っていたと聞く。つまり翌年の購読料を払ったばかりのところで、「寝耳に水」のように昨年末に廃刊となり、頭に来た読者も多数いたと聞く。
 その余波を受けて、「どうせニッケイ新聞もすぐに潰れる。乗り移ってすぐに潰れたら、嫌な思いを繰り返すことになる。それなら、もう購読しなくていい」と読まなくなった方も多数いるという話も方々で聞いた。
 逆にいえば、「それだけサンパウロ新聞を愛読していた」からこそ受けた廃刊のトラウマ、ショックだろう。まったく無理もない話だ。実際のところ40年、50年も愛読していた新聞から、ある日突然「廃刊します」と宣言され、その1週間後に実際にこなくなる―という経験は悪夢だ。
 しかも、晴れ晴れとした期待感一杯の気分で読みたい新年号が、最後の号になった。「2019年は、なんという嫌な形で始まった新年か…」と嘆いたサ紙読者も多かろうと想像する。
 とはいえ、邦字紙全体としてみれば、たとえどの新聞の読者であれ「邦字紙を愛読してくれていた」という事実は誠にありがたい。早くそのトラウマが癒えてくれることを心から祈りたい。

とにかく忙しかった1年

 編集部としてこの一年を振り返ってみると、「とにかく忙しかった」の一言に尽きる。
 普通に考えてみると、一世は減っているのだから、日本語で記事を出す需要は減ると思える。どの日系団体でも二世、三世が中心になっている時代だ。日本語新聞を読まない世代であり、彼等にとって日本語新聞の存在意義は薄れているはずだ。
 だが実際は「日本とのつながり」「日本から来賓を呼ぶので日本語の記事も出してほしい」「日本の人にも読んで欲しい」という意味で、思いのほか日本語で記事を出す必要性は残っている。
 裏を返せば二世、三世の時代になっても日本とのつながりはそれだけ多く、重要だという認識が続いている証拠でもある。本当にありがたいことだ。日系団体のイベントはむしろ年々増えており、「ネタは尽きない」どころか「こなしきれていない」のが現状だ。
 興味深いことに、日本語で記事が出たことで、取材依頼をしてきた日系団体は「その案件は国際的にも注目されている」とブラジル側の重要人物や官憲に見せて、アピールするという風にも使われている。
 そんな忙しい取材の合間を縫って、今年は3冊の本を刊行した。ざっとそれを振り返ってみたい。

子孫に読んでほしい『眞子さま写真集』

『眞子さまご来伯記念写真集/日本文化第9号』

 眞子内親王殿下がご出席され、盛大に祝われた昨年の日本移民110周年を記念して、本紙は今年2月に『眞子さまご来伯記念写真集/日本文化第9号』を刊行した。しかも日ポ両語で全ページカラー刷り、60レアルという格安価格で出した。
 全伯各地に記者を取材に派遣し、翻訳代もかけ、270ページ近くもあるのに全ページカラーで印刷代をかけたので、正直言ってかなり経費がかさんだ。弊社社長にも呆れられた。ビジネスとして考えた時、この値段では儲けにならない。正直言って、貧乏新聞社がすることではない。
 とはいえ、それも宮坂国人財団、天野鉄人氏、下本八郎氏をはじめ理解者・団体の協力があってこそ初めて実現できた。
 儲けが残らないのに、なぜ貧乏新聞社がそんなことをするか? それは、眞子さまがご訪問された感動を一世だけでなく、できるだけ多くの二世、三世、四世、五世、ブラジル人にも共有してもらうことが、次の大きな節目である日本移民120周年(2028年)を盛大に行うための最大の準備になると信じているからだ。
 子孫がこの本を開いて眞子さまの写真を眺め、逸話の数々を読んで、「皇室はブラジル日系社会のことをいつもに気にかけていてくださる」と胸に刻みつけることにより、「自分は日本をルーツとして持っている」「日系人としての誇り」という意識が蘇ってくるはずだ。この「日系人としての自覚」なくて日系社会というコミュニティに将来はない。
 この本が、できるだけ多くの日系家庭に常備されることで、三世、四世、五世がふと、「自分はどこからきたのか」「自分はなぜ今ここにいるのか」「何をするべきなのか」などとルーツに関する疑問を感じた時に、紐解いてもらえるのではと考えている。
 三世、四世がこの本を開けば、自分という存在の貴重さに気付くはずだ。「皇室」という1千年を軽々と超える、世界史の中でも稀に見る存在が、わざわざ自分たちのためにブラジルまでたびたび足を運んでくれるのはなぜか。
 第126代天皇である今上陛下も、移民百周年で当地に足を運ばれ、本紙ではその折にも写真集『百年目の肖像―邦字紙が追った2008年』を刊行した。
 今年10月の即位礼正殿の儀の折、あの写真集をとりだして、まざまざまとご覧になった読者も多いのではないか。リオのポン・デ・アスーカルの上でカメラを片手に微笑む姿など、素顔の陛下を垣間見られる貴重な写真が収められている。
 今回の眞子さま写真集からも、「日本という国の長い、長い歴史の流れの延長線上に、日系人としての自分がいること」「平野植民地、ノロエステ地方、トメアスー移住地をはじめとする明治以来の数えきれない移住に関する試行錯誤」「多くの善意や喜怒哀楽の積み重ねの上に、今の日系社会のあること」が感じられるはずだ。
 だからこそ、今のブラジルでは日系人は敬意を持って接されていることが伺われ、そこには、奥深くて、温かい、確かなものを感じるはずだ。
 そんな移民史を少しでも知ることで、日系人としてのアイデンティティが固まり、自分の存在により誇りが持てるようになるのではないか。
 我々一世にとっても、「子孫が日系人であることに誇りを強め、ただがむしゃらに生きてきた一世の人生の軌跡を高く評価してくれること」こそが、最も喜ばしいことではないか。

日本の人に読んで欲しい『移民と日本人』

『移民と日本人』(無明舎出版、2019年)

 本紙は今年6月に、日本で『移民と日本人』(無明舎出版、150レアル)も刊行した。
 なぜ地球の反対にあるブラジルに25万人もの日本人が渡ったのか。「明治」という時代の、どんな背景の中から大量の日本人は押し出されるように地球の反対側まで渡っていったのか。
 そして「ブラジル日本移民という存在は、近代日本史から忘れられた存在になっていないか。正しく歴史の中に組み込まれているか」という問いかけをしている。
 これはグローバル時代ならではの、外国人労働者が近隣に押し寄せる生活環境になった日本の日本人に対する、移民大国ブラジルの日系社会からの提言として刊行したものだ。読み終えた人には、「日本人もブラジルで移民だった」という感覚から、「隣の外国人」が他人ごとでなくなることを期待して書かれたものだ。
 これは、日本の日本人向けに出した本だ。現在の邦字紙の役割の一つには、《日本の日本人に「移民とは」「ブラジルとは」ということを伝えること》も含まれると考える。だから、あえて日本で出版した。
 グローバル時代には、日本で起きていることの多くは、瞬時にブラジルにも伝わる。だが、ブラジルで起きていることは、めったに日本側に伝わらない。邦字紙は、印刷物はもちろんサイトやSNSを通して、ブラジルの情報を日本側にもっと発信していくべき時代になった。それが、邦字紙生き残りのキーワードの一つでもある。
 6月に、無明舎出版から郵送で送ってもらったが、手違いからいったん、日本に送り返されてしまった。再び郵送し直してもらい、先週ようやく到着した。新年から本格的に販売を始めるが、すでに日系書店には並んでいる。
 日本から来た来賓、知人や友人にプレゼントするなどにも使ってほしい一冊だ。

日本に馴染がない世代向け『COISAS DO JAPAO』

ポルトガル語翻訳版『O MUNDO AGRADECE! COISAS DO JAPAO』

 本紙は今月9日、『世界が感謝!「日本のもの」』(「ニッポン再発見」倶楽部著、三笠書房、2015年)のポルトガル語翻訳版『O MUNDO AGRADECE! COISAS DO JAPAO』(40レアル)の販売を開始した。
 世界の人々を魅了する「日本の優秀な製品やサービス」全97種をポルトガル語で紹介する本だ。ポルトガル語世代の子や孫、日本のハイテク製品に関心のあるブラジル人の友人やビジネスパートナーへのクリスマスや年末年始のプレゼントにぴったりの一冊だ。
 本の中では、世界の暮らしを便利にした「日本のもの」として、痛くない注射針、LED技術、新幹線、公文式教育法、魔法瓶、ファスナーや高機能トイレを始め、世界に安全と安心をもたらした交番、内視鏡など多数を紹介している。
 ブラジル日本商工会議所の平田藤義事務局長からも、《日本で当たり前に普及している技術やその応用製品、システムが、どれだけ途上国に移転され、それらの国々の国民に恩恵や幸せを与えているだろうか。技術移転には供与国側と導入国側の親密な連携が不可欠だ。日本の先進技術を非常にわかりやすく、網羅的にまとめた同書が出版されることで、導入国側であるブラジルの日本に対する意識が向上し、より親密な連携関係を生み出すことを私は確信している》とのあとがきを寄せてくれた。
 この本の読者は一世ではない。普段は日系社会と関わりがないような二世、三世、四世、五世、なかでも一般ブラジル人を中心読者として想定している。
 まずは日本製品についての関心を深めてもらうことで、日本的な製品設計思想、製造哲学を少しだけでも理解してもらい、そこから日本語や日本文化、歴史へと進んでもらう第一歩にならないかと思って刊行した。
 とくに日本文化好きなブラジル人には堪えられない一冊ではないかと自負する。
 これらの本はみな本紙編集部(11・3340・6060)、太陽堂(11・3208・6588)、竹内書店(11・3104・3399)、高野書店(11・3209・3313)などから購入できる。

ポ語読者開拓で生き残り

 このように今年、貧乏新聞社ながらも3冊、本を刊行した。『眞子さま写真集』は日系社会向け、『移民と日本人』は日本の日本人向け、『COISAS DO JAPAO』は一般ブラジル人向けという基本的な方向性で発行した。今のところ、それぞれ好評なので胸をなで下ろしている。
 来年に向けては、すでに『日本文化』第10巻、『日本史』などの刊行準備に入った。
 新聞には「今コロニアで起きていることを読者に知らせて注意喚起する」「移民史に残すべきことを記録する」などの役割がある。通常の新聞発行に加えて、このような本の出版事業を続けるのは、正直言ってかなり重荷だ。だが、本には本の役割がある。
 新聞読者の理解がある限り、新聞社は続く。移民社会の宿命として日本語の読者は減るとしても、その分、ポ語の読者を開拓すれば生き残れるはずだ。
 その点、ポ語週刊新聞NIPPAKの存在は心強い。それに加えて、このようなポ語刊行物を出し続けることで、少しでも日本文化、日本の情報がブラジル社会に広まっていけば、コミュニティ新聞として生き残っていけると信じている。
 先人の開拓精神に学び、ポルトガル語市場という新しい〃畑〃を開墾して広げていきたい。
 旧年は愛読者の皆さんに本当にお世話になったと感謝している。新年もご愛読のほど、心からお願いしたい。(深)