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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(249)

 ほんの少しの暇があれば、浜辺にいける。宿直がない水曜日か木曜日の夜、サントスのヴィラ・ベルミロ球場まで足を延ばしサッカーの試合が見られるかもしれない。チームにはジット、ラエルシ、フォルミガ、ペペ、パゴゴアンなどの名選手がそろっていた。また、ペレーとかいうおかしな名前の少年が頭角を現し始めていたときでもある。いい試合のある日曜日には汽車でサントアンドレの実家にもどらず、試合を見に行こうと考えた。
 サントス港に詳しい人を通じて、マサユキは港にある軍の出向所で、輸入ウイスキーが安く手に入ることを知った。はじめて手に入れたとき、まず、父に持っていこうと思った。ウイスキーはグレイ・グラントといった。
「父さん、サントスで手に入れた酒を持ってきました。まず、父さんに飲んでもらいたくて…」
といながら、厚紙にくるんだビンを正輝に手渡した。
 貧乏でピンガばかり飲んでいる正輝だが、ウイスキーについても耳にしていた。しかし、評判の高い、このような蒸留酒を飲めるなど、考えたこともなかった。厚紙をはずしてビンを取りだして驚いた。丸でも四角で長方形でもなく、三角形なのだ。人間の創造力の素晴らしさを感じながら、金色のラベルと文字を眺めた。
 ピンガはコルクで栓がされているので、いつもの習慣で栓抜きをさがした。
 息子は栓を回すよう開け方を教えた。栓が完全に開くと、正輝は酒の匂いを嗅いだ。ニーチャンは片手に2、3滴ウイスキーをたらし、両手を擦り合わせ、蒸発させると、本来の匂いを嗅げるといい、正輝はそうやってみた。古い匂いがした。味は素晴らしいだろう。
 いつもピンガを飲む杯をもってきて、指巾ほど注いだ。それを鼻にあて、目をつむった。長い間そうしていたが、眼を空け、息子をみて、微笑み、杯を口に当てると、一気に口に入れた。けれどもすぐには飲みこまなかった。口のなかでその味を確かめた。ウイスキーが喉を通ったとき、喉がとけるような感じたが、そのまま飲みこんだ。まだ舌に味がこびりついている感覚があった。
「こんちくしょう!」彼の最高のほめ言葉だ。
「こんなにうまい酒を飲むのに、なんとまあ、長い時間がかかったことか!」