5年前、母親の棺に墓堀人夫が土をかけているのを見て、人の死が一気に現実のものとなる経験をした事などで、学校も休みがちだったそれまでの生活態度を改めて猛勉強。医学部合格を果たした青年がいる。
サンパウロ州内陸部カンピーナス市の公立高校生だったマテウス・ガルベリンさん(22)は、授業に全く興味がなく、学校もよく休む問題児だったが、母親ががんで苦しみ、命まで落としたのを見た事で、医学の道を志した。
だが、高校の教師達が精一杯頑張っていても、トイレットペーパーさえないという現状の前に生徒達の学習意欲も殺がれていたため、大学受験のためには特別な支援が必要だった。
母親を亡くした悲しみと戦い始めたマテウスさんは、高校3年でバイオテクノロジーを学び始めた上、カンピーナス大学が開設している受験生用の講座を受講した。
2年間受講した効果はあり、サンパウロ総合大学(USP)の入試(Fuvest)でバウルーキャンパスの医学部に合格。さらに、国家高等教育試験(Enem)の結果を用いた統一選抜システム(Sisu)ではサンパウロ市にあるUPS医学部にも合格した。
マテウスさんは公立高校で学んだため、黒人や褐色(パルド)、先住民と自己申告した人への特別枠と公立校卒業者への特別枠を利用する事が出来る。マテウスさんは州立パウリスタ大学(Unesp)医学部にも合格しており、他の三つの公立大学の入試の結果も発表待ちだが、レベルの高さと所在地の両面から、かつてから夢見ていたサンパウロ市のUSP医学部に入学する事を決めたという。
マテウスさんが医学部進学を考えたのは、母親が皮膚がんの中でも特に悪性の黒色腫に罹り、4年間の治療の甲斐もなく、亡くなったからだ。特に、末期と診断された最後の半年間は、これまでの生き様を振り返るのに充分過ぎるほどの経験をする時となった。
母親は脳にもがんが転移し、手足の細かい動きが制限され始めた上、呼吸やコミュニケーションにも支障をきたすようになった。母親が入院していた1カ月間、ずっと入浴を手伝っていたマテウスさんは、人生で最も大変な時期の人達に接している統一医療保健システム(SUS)の医療従事者達の働き振りをつぶさに見、人間らしさを保ちながら行う医療の大切さと、公共医療サービスの存在の大切さを肌身で感じたのだ。
この体験から、自分も医者になろうと考え始めたマテウスさん。だが、その道は決して平坦ではない。地元で受けた受験講座でも黒人の生徒は少数派で、黒人が医師になれるのかと自問自答さえしたという。それだけに、偏見などを越え、医師としての学びや研修をこなしていく事は楽ではない事を痛感している。
Sisuの結果発表が遅れ、なかなか落ち着けなかったというマテウスさん。合格と知った時、父親や妹と祝う前に報告したのは、最後まで息子を信じ、必ず医師になれると励まし続けていてくれた母親だったという。(1月29日付G1サイトより)