国費留学生(日本語・日本文化研修、「日研生」と略)の初帰国報告会が6日午後7時からサンパウロ市のジャパン・ハウスで開催され、日系社会代表団体の役員や日系企業、家族ら約100人を前に、在サンパウロ総領事館管轄の6人中5人が訪日の成果を語った。いずれも18年9月から19年8月頃までの1年間、日本の一流大学に留学し、日本語や日本文化を研修してきた。
野口泰在サンパウロ総領事は、これは将来の日伯交流の懸け橋となる人材を育成する制度であり、その成果を日系社会や日系企業に紹介するために開催したと主旨を説明した。
最初に発表したのは中川カロリーナさん(サンパウロ総合大学、以下USP)。イラストレーターを目指している。留学先の東京外国語大学は外国人学生が827人と多く、「いろいろな国の同年代の学生と、多様なテーマを議論ができ、とても刺激的。違う考えを持つ人に敬意を払うことを強く意識するようになった」と振り返った。
「日本の国土はブラジル比べて狭いが、県ごとの特徴は際立っている」と風土や文化の違いの驚いた様子。「日本語を勉強したおかげで日本へ留学できた。未来の留学生を支えるような協力をしたい」と語った。
アンジョス田名網エミリアさん(リオ・グランデ・ド・スル州連邦大学)も東京外語大へ。「『日本人は挨拶でアブラッソ(抱擁)しないから冷たい』という先入観があったが、表現方法が違うだけで気持ちは同じだと分かった」とし、1年間共に過ごしたバスケットボール部の仲間が最後の練習日、わざわざ自宅まで送ってくれたことを例に出した。
「日本にはウチとソトの使い分けがあることが分かった」「ブラジルではただの入り口だが、日本の玄関はソトとウチの中間、切り替えるための空間だと分かった」などと説明し、「日本語表現を勉強することで、ポルトガル語の表現にも反映され、より多様な言い方ができるようになった」との気付きを語った。
阿部フェルナンダひかりさん(サンパウロ州立大学、UNESP)は日本で生まれ育ち、12歳の時に帰伯したデカセギ子弟。すでに日本語教師をしており、生徒からの日本語・日本文化に関する質問に答えられないことがあったので、「もっと深く日本を知らなければ」と留学を志した。一橋大学では「在日ブラジル人の若者が思う祖国」を調査、「デカセギ中に親がどんな気持ちだったか分かるようになった」「在日ブラジル人や日系人、移民について研究を進める」と語った。
非日系のカルバーリョ・クレマスキ・バウメル・タリスさん(USP)は東京学芸大に留学。「日本語を勉強したことで、ブラジルでは想像もしたことがなかったような日本文化の深みを知ることができた。良い点を取り入れたい」と語り、日本の大学院に進学する目標を掲げた。
山本チアゴたけしさん(サンパウロ連邦大学)は神戸大学へ。ブラジル生まれだが、親に連れられて幼少時に訪日して中学まで勉強して、帰伯した。「自分は日本人だと思って帰伯してカルチャーショックを受けた。一人の日系ブラジル人として改めて日本を体験し、日伯の違いを感じたかった」との留学動機を説明した。
1年の成果として「日系人アイデンティティの見直しができた」「ブラジル文化を客観的に見られるようになった」などを挙げ、「日系社会の継続に問題意識を感じ、活性化に取り組みたい」と締めくくった。
元国費留学生会の堀川オズワルド会長は最後に、「1956年から計900人も、日本でも最も良い大学に留学させてきたプログラム。我々はそれに応えて、良い点をブラジルに持ち帰り、ここにおける『日本の民間大使』『日本の友人』にならなければいけない」と総括した。
報告会開催の提言者の一人、ブラジル日本語センターの日下野良武理事長は「今日発表した人は、人前で言ったからには『本当にやらなきゃ』となる。彼らがどう日本を見たかは我々にも参考になる」と頷いていた。
日研生には(1)非日系も参加できるが日本語能力N3以上、(2)日系人の2種類あり、航空旅費、日本での生活費、学費は日本国文科省が負担。現在応募受付中。問い合わせ・申し込みは在サンパウロ総領事館の広報文化班(11・3254・0100、cgcultural5@sp.mofa.go.jp)まで。
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国費留学生の初帰国報告会で、カルバーリョ・タリスさんは東京学芸大のストリートダンスのサークルに参加し、「練習の後に皆でご飯を食べに行き、合宿、発表会を通して親友ができた。サークルとか部活、先輩や後輩はブラジルにはない。とても興味深い」と充実した1年間を振り返った。阿部フェルナンダさんは「緊張した面持ちでスーツ姿で就活する学生の姿は、ブラジルの大学では見たことがなかった」などの気付きを発表。日研生のような優秀な人材が日系社会の後継者になってくれるのは大歓迎。ぜひ県人会や茶道や華道、YOSAKOIソーラン、和太鼓などにも加わっても良いのでは。この制度OBの900人には、ぜひ県連日本祭りのスタッフに加わってもらったり、日系団体の役員になってもらいたいところだ。