「震災後のことだけでなく、福島県の魅力を研修で感じてほしい」。研修3日目の1月24日、郡山市の福島県農業総合センターに向かった一行に、県国際課のトビー・バークべックジョーンズ国際交流員は、東日本大震災から復興に向けて歩む現況、四季や風景などの説明の中で、そう真剣な眼差しで訴えかけた。
日本で3番目の面積を誇る福島県は、南北方向に延びる2つの山脈によって、浜通り、中通り、会津地方の3地域に分かれる。各地域によって気候や文化、県民性などが異なる事も相まり、豊かな自然と歴史、伝統文化を有している。
その福島県を襲ったのが、2011年3月11日に発生した「東北地方太平洋沖地震」だ。19年12月現在、地震及び大津波による死者は4109人に上り、現在も約4万1千人が避難生活を続けている。
津波の影響で東京電力の福島第一原子力発電所では、炉心溶融(メルトダウン)が発生。大量の放射性物質が放出する原子力事故に発展した。
県内では除染作業を行い、震災後は1時間あたり2・74μSv(マイクロシーベルト、11年4月時点)だった福島市の空間放射線量が、0・13μSv(19年12月現在)と大幅に減少した。
震災から9年経ち、確実に復興を遂げている。ドミニカ共和国から訪れた佐々木さりさん(33、三世)は、「県にこんなにたくさんの魅力があるなんて知らなかった」と驚いた様子だった。
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次に、福島県農業総合センターの草野憲二安全農業推進部長が農業総合センターについて説明を始めた。ここは技術開発機能を核として、安全・安心な農業を推進し、農業教育も行う農業振興の拠点だ。
震災後は、放射線物質の除去・低減、避難地域等における営農再開や農業再生、耕作地等の津波被害に対応する技術の確立にも取り組んでいる。
草野部長は県を代表する農林水産物を紹介。特に桃については「18年にブラジルから取材に訪れた女性記者が、桃を一口食べた瞬間に『美味しい!』という驚きの目で私を見ました。それが今も忘れられません」とのエピソードを披露した。
だが農産物は、震災後に原発事故の影響を受けた。それを打破するために、福島県は徹底した取組を始めた。例えば農用地・果樹の除染として、放射性物質を含む表土の削り取りや汚染のない下層の土壌を表層に置く反転耕、高圧洗浄機による洗浄等を行った。
検査体制も厳しく、政府、県、市町村だけでなく、産地・生産者も自主検査を実施している。放射性物質が国の基準値を超えた生産物は一切流通させず、流通後も抜き取り検査等を行い、全ての検査結果を公表する。
その結果、草野部長は「今年は人の手で栽培した農産物や海の魚で基準値超えは出ていない」と強調した。だが、その事実がまだ充分に海外では知られていない。
だから風評被害の影響もあって、現在も20の国・地域が福島県産品の輸入規制を行う。完全なる復興に向け、内堀雅雄県知事自らも海外で農産物の魅力を積極的にPRするイベントを行うなど、対外的な発信は不可欠だ。
その後、放射性物質モニタリング検査場を見学した。草野部長は施設の入口で靴を履き替えるよう指示し、「万全の注意を払うため、検査室に入る前にもう一度、靴を変える」と説明する。
検査は、細かく刻んだ試料(食品)を容器に詰め、ゲルマニウム半導体検出器で測定する。11台ある検査機は毎年メンテナンスを行い、正確な数値を出し続けるよう調整する。
レヴィさんは「国内外に出荷する物は100%検査しているのか」と質問。草野部長は「米と肉は全て検査し、それ以外もモニタリング検査を行っています」と答え、県産品の安全性に自信を見せた。
この取組を取材するため、現在までに130カ国ものメディアが訪れているという。「皆さんも福島の美味しい食事をたくさん食べて帰って、国の人に伝えてください」と笑顔で締めくくった。
アガタさんは「やはり日本の復興への取組は素晴らしい」と感動した様子で語った。(つづく、有馬亜季子記者)
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