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サンパウロ=アギア・デ・オウロが初優勝=原爆ドーム山車に賛否両論も=今年も日本人・日系人大活躍

賛否両論を呼んだ、アギア・デ・オウロの原爆ドームを再現した山車

 先週末から毎年恒例のカーニバルが各地で行われ、サンパウロ市ではスペシャルグループに所属する14エスコーラ(チーム)がパレードを21、22両日夜から翌朝にかけてサンバパレード専用会場で披露した。日本人サンバダンサーやブラジル駐在員もあちこちのチームで参加した。中でも「知識の力」をテーマにしたチーム「アギア・デ・オウロ」のパレードでは、知識が生んだ負の遺産である広島の原爆ドームを再現した山車が登場させて戦争の悲惨さを訴え、ブラジル広島文化センター(吉広ロベルト貞夫会長)、ブラジル長崎県人会(川添博会長)の会員らも加わって優勝を果たした。

 「行進するラテンのオペラ」とも言うべき3千人前後のパレードが、4~5台の巨大山車を伴って登場。凝った衣装を身につけたダンサーらによる社会風刺や文化・歴史への敬意を込めたパレードが華やかに繰り広げられ、観客席に詰め掛けた大勢の観客とともに踊り歌った。
 23日午前のアギア・デ・オウロのパレードでは、被爆した広島県産業奨励館(現在の原爆ドーム)と、原爆によって発生したきのこ雲を再現した山車が登場した。
 原爆ドームには炎が上がる映像も組み込まれ、ドーム内では、すすだらけの顔をした広島・長崎県人会会員らが、静かに立ち尽くしたり、戦火に巻き込まれ苦しむ様子を見せたりした。
 川添会長によれば「カーニバルでは出場者全員が絶えず歌い踊るのが原則だが、アギア・デ・オウロのパレードは、原爆の悲惨さを伝えるため、ドーム内の参加者だけが歌うことなく、ただ立っていたり、苦しみもがく演技をする特別演出で行進した」という。両県人会会員やブラジル健康表現体操協会の会員ら約20人が参加した。
 アギア・デ・オウロの今回のテーマは「知識の力」は、人類の知識の進歩は善悪両面をもたらしたことを訴えかけた。その負の側面の象徴として日本への原爆投下が選ばれ、被爆者を含む県人会員らが出演に応じた。
 参加した広島県人会の森本美奈さん(41、二世)は父が広島県出身。「パレードに出られて嬉しい半面、原爆のことを思うと悲しい。だが多くの人にこの悲しい出来事を知ってもらうことが重要だと思う」と出場した理由を説明した。「出演するにあたり、参加者で原爆に関する映画を鑑賞し、原爆について学んだ。被爆者の気持ちをできるだけ理解しようと思った」との真剣な気持ちを述べた。

 


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 サンパウロ市のカーニバルで、原爆ドームを再現した山車などを繰り出し、見事優勝に輝いたアギア・デ・オウロ。一方で会員制交流サイト(SNS)では、日本語を中心とした批判の声が上がっている。実際のブラジルのカーニバルでは、社会風刺や政治的メッセージなど社会性が高い硬派なテーマがよく扱われる。ところが日本の大半の人はそれを知らず、露出の多い衣装で踊る男女がいるという一点で「裸の馬鹿騒ぎ」というような先入観が持たれており、「そこで原爆を扱うのは不謹慎」という意見がSNS上にあふれている。「カーニバル=裸踊り」という一方的なイメージを植え付けてしまったのは誰か? ブラジル文化への不理解の賜物ともいえそうだ。


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 実際にアギア・デ・オウロのパレードに参加した川添博・長崎県人会会長は「参加する県人会の人も、これを機会に原爆について学び、パレードを目にしたブラジル人にも原爆の悲惨さを感じてもらえたと思う。参加した人は、カーニバルがただ騒ぐものではないと理解したはずだ」と語った。例えばツイッター上には原爆ドームの山車の映像だけが流れて、それに「不謹慎だ」と「被爆した人の気持ちを考えていない」などの批判的コメントが添えられている。そこからはパレード全体のテーマもストーリーの流れも分からない。ツイッターという仕組み自体も良くないのでは。


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 今年も多くの日本人を引き連れ、カーニバルを盛り上げた葛西叙江さん。そのブラジル生活の奮闘ぶりがブログ(http://joe.hatenadiary.com/archive)にまとめられている。リオデジャネイロ州のファベーラ(貧民街)近くで生活していた頃、タクシーで帰る途中にマフィアに引き止められた手に汗握る話などが面白おかしく語られている。ぜひ一度読んでみては?

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