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復興する福島を海外に伝える=移住者子弟の受入研修=(7)=「福島は大丈夫と伝えたい」

 野口英世はアメリカのロックフェラー医学研究所を拠点に、世界で活躍した福島県人だ。彼が生きていた当時、中南米では黄熱病が猛威を振るっており、その研究のためにエクアドル、メキシコ、ペルー、ブラジルを次々と訪れ、業績を残した。
 そのため各国では今も彼を顕彰する式典が行われ、滞在を記念した場所や建物が残っている。
 一昨年はエクアドル、昨年はメキシコで野口英世訪問100周年目を記念し、記念事業も行われた。今年はペルーが訪問100周年を迎えており、記念事業が日本ペルー文化会館で行われる予定だ。エクアドルにはノグチ通りやヒデヨノグチ小学校、ペルーのリマには野口英世学園、メキシコには野口英世博士医学研究所がある。
 中南米にこれだけ広く足跡を残した日本人は他にいない。中南米と絆の深い福島県人だ。
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蒔絵体験で作品を見せるアガタさんと理恵さん

 「持って帰るのがとても楽しみ!」。アガタさんは漆器に描いた絵を見て笑顔を浮かべた。明治中期に創業した木之本漆器店では、伝統工芸技法の蒔絵体験を行った。完成された漆器の表面に漆で文様を描き、金粉や銀粉を巻き付ける蒔絵は、喜多方地方では400年以上も継承されている。

木の本漆器店の前で記念撮影

 「好きな柄を描いてください」とスタッフが声をかけて見本を手渡すと、研修生は松などの古典的な柄を選ぶ人が多かったが、米国ハワイの研修生タウニー・イリヒア・フィリアロハ・エミコさん(17、五世)は「たくさんの色を使いたい」と色彩豊かな作品に仕上げていた。
 この日の昼食は老舗の『まこと食堂』で喜多方ラーメンを味わい、さらに午後は宿泊先のリステル猪苗代でそり滑り体験を行うなど、会津地方の文化を楽しむ1日となった。「私もこんなに雪を見たのは初めてだった」と喜んだペルーの県費留学生・ステファニーさんとは、ここで別れた。
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福本カレン理恵さん

 「帰国したら、福島はもう大丈夫だって伝えたい」――福島県費留学生でブラジル福島県人会青年部に所属している福本カレン理恵さん(25、三世)に県費留学の経験について取材すると、そう締めくくった。
 理恵さんは、昨年5月から郡山市の国際アート&デザイン大学校でコンピューターグラフィックスを学んでいる。アニメやゲームが大好きで、流暢な日本語もその影響で覚えた。
 最初は福島に対して「東日本大震災のイメージが強かった」という理恵さんだが、「2017年のブラジル福島県人会創立百周年で、内堀知事がジャパン・ハウスで県の現状を語り、『もう大丈夫』と綺麗な花の写真を見せてくれた」ことがきっかけで印象が変わった。
 実際に住んでみると治安が良く、綺麗で落ち着いた街でとても気に入った。県民に愛される特産品『桃』や郡山市最大の祭り『郡山うねめまつり』等の文化も楽しんだ。「最近はむしろ、お洒落なカフェ、ふとした時に見る空の美しさなどの日常自体に魅力を感じる」。
 留学当初は日本語での講義に苦労したが、慣れると授業内容は自分に合うものだと感じた。ブラジルではプログラマーやアニメのイラストレーターとして働いていたので、「仕事でこの知識を活かせる」と喜ぶ。ブラジルに戻ったら「福島に関する漫画やゲームを作って『今は大丈夫だ』と伝えたい」と頼もしい決意を口にした。
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武士の名門校「會津藩校日新館」

 研修8日目の1月29日は雨。訪問地中で最も寒い会津で、真夏の中南米からきた研修生はとくに震えあがった。ところが県国際課の安田吉紀副主査は「今年は暖冬で雪は少ないんです」と笑っており、改めて冬の厳しさに驚かされた。
 寒い雨の中、一行が向かったのは会津藩校日新館。江戸時代には、全国三百藩校の中で規模内容共に随一と謳われ、多くの優秀な人材を輩出した武士の名門校だ。東京帝国大学(現東京大学)総長だった山川健次郎も同校の出身として有名だ。
 五代藩主、松平容頌(かたのぶ)の時代、家老の田中玄宰(はるなか)が「教育は百年かけてやるべき大事な仕事です」と進言し計画された。その5年後の1803年に完成した。
 上級藩士の子弟は10歳になると入学し、儒教の教典を修める素読、弓・馬・槍・剣の武術を必須科目として学ぶ。入学前は6~9歳の幼児教育グループ『什』を作り、什長(リーダー)が教える『什の掟』を学び、「ならぬことはならぬ」の精神を身に着けた。

「人格形成が大事」と説かれた弓道体験

 ここで研修生は武道体験として弓道を行った。「アーチェリーは的当てだが、弓道は武道。当てることより、精神を鍛える鍛錬や人格形成の方が大事」との心構えを説明され、研修生らは精神を集中させて矢を射た。最後は感謝の気持ちを込めてぎこちないお辞儀をし、道場を後にした。
 米国ハワイからの研修生、エワリコ・カエナ・リー・トウカイリンさん(26、四世)は、「やっぱりサムライの歴史は面白い」と興味津々で、見学中も職員へ積極的に質問していた。(つづく、有馬亜季子記者)