「中国経済の不安定化により、世界の流動性が高まっている」。ブラジル日本商工会議所(村田俊典(としふみ)会頭)の2月定例懇親昼食会が21日、サンパウロ市のマクソウドプラザ・ホテルで開催され、政治評論家で国際公共政策研究センター(CIPPS)理事長の田中直毅氏が「ブラジルをとりまく世界経済の今後」をテーマに講演し、そう警告した。
田中氏の同研究センターはブラジル『写真機』プロジェクトとして、12年から会議所会員企業からアンケート返答を毎月もらって独自に解析して、CIPPSブラジルインデックスを割り出しており、理事長からは世界経済情勢を含めた結果報告を定期的に受けている。
田中氏は「世界各地での気候変動が激化し、2050年までに二酸化炭素の排出を実質ゼロにする取り組みが始まり、エネルギー依存の方向性が変わり、石油から液化天然ガス(LNG)になった」との話から始めた。
火力発電に使われる石油、石炭、LNGの中で、二酸化炭素排出量が少ないクリーンなエネルギーとしてLNGが注目を集めている。排出量は石油に比べて25%、石炭の40%と化石燃料の中では環境に優しい。
そのため世界的に石油需要が減っており、主要産出国の中には危機感が広がっている。元々ブラジルの石油産業は岩塩層下油田中心で高コスト、価格が高くないと利益が出ない構造がある。つまりペトロブラスには不利な風向きだ。
「中国経済の成長率は6%とか言っているが、私の計算ではせいぜい2%。対中投資の6割を占めるのは、実は在外中国人(華僑)だと見ている。私はこの5年間、世界華僑大会に毎年出席している唯一の日本人」と関係の深さを語った。
世界華僑大会に出席し始めた発端が、彼の「中国経済停滞論」だったという。「私に華僑大会での講演を依頼してきた人は、『ぜひ停滞論を皆の前で話してほしい。華僑の間で状況を正確に把握しておくべきだ』と頼んできた。『自分たちで話したらいいじゃないか』と返すと、『本国の手前、自分たちはそんなことは言えない。でも日本人が言う分には許される』と説得してきた」という。
「華僑は昨年来ほとほと困り果てている」とし、昨年の香港の民主化運動、今年の台湾総統選で蔡英文氏が圧勝したこと、そしてコロナウイルスだ。香港一の大金持ちとして知られる華僑の代表格・李嘉誠(リカシン)氏の資産は今では、中国国内には5%程度しか残していないのではと見ている。
「中国南部で失業率が高まっている。危険な状況だ。武漢ではコロナウイルスによる都市閉鎖がキッカケで、秩序破壊行為が起きる可能性がある」と指摘した。
中国経済の不安定化により、世界の流動性が高まり、最も安全な投資先である国債への投資が世界中で増えている。「マイナス金利であっても、国が保証している国債は失う危険性がないから、今のように流動性が高い時には逃げ場になる」と見ている。
田中氏は「ブラジルと中国のCIPPSインデックスは、驚くほど一致していることが分かってきた。調査の母数が多いほど正確な結果が出る。ぜひ加盟社の皆さん、もっとアンケート協力を」と呼びかけた。
当日は新会員のJSPムービングサービス社の橋本春樹氏から会社案内が行われた。
また国税庁から国際郵便の取扱い変更についての説明もあった(別記事で詳述)。サンタクルス病院の辻マルセロ病院長、長谷川レナト医局長という新人事も報告され、「日本語によるサービス、人間ドックに力を入れている」と二宮正人第2副理事長が説明した。