昨年末、中国武漢市で始まった新型コロナウイルス病は2月~3月中にイタリアを始めとするヨーロッパを席捲し、今月からはここブラジルでも急速に拡大の様相を見せています。
これに対し連邦政府、特にボルソナロ大統領は国民を元気付けようとして「一寸したカゼみたいなものさ」と公衆の面前に普段どおり現れていましたが、その内、医療、保健関係者の注意を入れ、コロナウイルス防疫にまともに対峙する構えに変わっています。
ブラジルのコロナウイルス死者18人の大半15人の死者を出しているサンパウロ州ではドリア州知事、コーバス市長等は事態の重要性を認識して21日、新型肺炎の感染症蔓延を防ぐ対策「QUARENTENA」(外出禁止令)などを、24日から実施することになりました。
この外出禁止対策は私たち日系市民、とりわけ60歳以上の高齢者の生活に多く関わり、制約も与えるものでもありますので、以下、若干のエピソードも交え、その内容をご紹介いたします。皆様の事態ご理解の参考になれば幸いです。
QUARENTENAで何が変わる
QUARENTENAは感染症の拡散を防ぐための措置で、市民生活の次のような点を規制します。(大サンパウロ都市圏において)
(1)大規模集会〔音楽祭、デモ〕などを禁止する。ショッピング、ジム、一般商店などを閉店する。
(2)学校、講習会、宗教活動などの集会をやめる。
(3)不要、不急の旅行〔観光など〕を取りやめる。
(4)老人、持病のある人は家庭内に止まり、外出を自粛する。
などです。
逆に以下の様な機関、設備は平常どおり営業します。
(1)公共交通機関(メトロ、バスなど)関係官庁など。
(2)フェイラ市場、病院、薬局、ガソリンポストなど。
以上の様に中々厳しい内容で、日本などではこれがキチンと守られて効果を上げているようなのですが、当地では何処まで庶民がこれに従うのか? 疑問視する意見もあります。
リオ州では州知事が「病気がうつるから海岸など人ごみに行かないように」と禁止宣言を出しているのに、コパカバーナ海岸など、色鮮やかなビキニをつけた美女、美男で一杯、市役所の広宣車が出て、「引き揚げて、家に帰って」と指示する始末です。
そこでインタビューされていたよく日焼けしたオバサンが言ってました。「あんた、この青い海、そよ吹く風、見える? この強い太陽の光があたれば、ビールスなんか直ぐ死んじゃうよ」成る程、防疫担当者もご苦労さんです。
病院でも貰う病気
「病院は病気を治すところ」が常識ですが、所変われば品変わる、反対に病気を貰うところでもあります。
65歳の男性はパライゾ区の病院に入院して居ましたが、今月18日死亡しました。家族、周囲の人はコロナ病と知らされていず、通夜になって、棺が密封されているのを見て、コロナ伝染病と知らされたと言うのです。
その直ぐ後、病人を看病していた家族、交流のあった同室患者など4人もが同じコロナ病で亡くなりました。病院が適切な通知、措置を取らなかったため、何もしらず濃厚接触した人に感染したのです。
病院(あるいは医師)の無知、緩み、何があったのか分かりませんが、パライゾなど都心部の病院での出来事で心が痛むことです。
「中国カゼ」は人の貴賤を問いません。ブラジリアでは上院議員や上院議長もウイルス罹患と認定され、現在は自宅療養(QUARENTENA)中です。クワバラクワバラ。
エドワルド 暴走
中国カゼの感染についてお話をもう一つ。
ボルソナロ大統領の息子、エドワルド下院議員は36歳で身長190センチ近い美丈夫です。前回選挙でブラジル最多の180万票の支持を受けたので「われこそはブラジル民衆の代表」という意識の高まりもあったかも知れません。先日ツイッターでこんな主旨を述べました。
「中国やロシア(原子力発電所事故)の例でも分かるが、全体主義者は我々民主主義国と違って具合の悪い情報を隠匿する嫌いがある。今回のコロナウイルスの場合でも中国当局がこの病気を隠蔽せず早期に公開していれば、今の様に拡散して世界の人人に迷惑を掛けずに済んだのでないか」
いかにも「今の世界の苦境はお前らのせいだ」と言わんばかりの発言なのです。
この発言公開を前に中国のYANG大使が早速とがめだてしました。「いかに非公式の場の発言とは言え、これは聞き捨てならん。中国政府、人民の品位と尊厳を傷つけるものだ。『中国はウイルスを拡散などしていない』。エドワルド氏は中国国家、国民に対し、謝罪して貰いたい」と大国として立派な発言でした。
中国はブラジル貿易の最大のお客さんで、外貨収入の4分の1は中国からのお金です。一方、エドワルドは大統領の息子で現政権の大切な支柱の一つです。どちらの肩を持てば良いのか、判断に迷うところですね。
政府の有力幹部は、「発言者がエドワルド・タロベーと言う名前なら、誰も余り問題にしないだろ。しかし、名前(姓)にボルソナロが付くと問題なんだ。この点をふまえてものを言って貰いたいね」。
抗議文の宛先人だった方の一人、マイア下院議長はやはり大人です。「エドワルドの不用意な発言で我が友邦の感情を傷つけてしまい、誠に申訳ない。お詫びします。今後ともブラジルと中国の交流が益々拡大、緊密化することを望みます」でした。
なお、アメリカのトランプ大統領も強烈な発言で知られていますが、コロナウイルスを「中国カゼ」と呼び、そのことについて訊ねられると「この疾病は中国から始まったんだろ。それで『中国カゼ』と言ったのさ。(どこかおかしい?)」でした。「YES SIR! 貴方、間違っていません」です。
泣き面に蜂・原油紛争
疫病が広まれば経済は不振となり、石油の消費は減ります。原油の世界取り引き場ではそれを見越して原油の価格(WTI)は下降気味でした。
それが3月18日、突如20・37ドル/B/Dに暴落しました。これは2002年以来の記録的安値です。その原因は、サウジアラビアなどの産油国が協調して生産を減らし価格を「適正」に維持しようと提案したのに対し、「我が国はそういう話には加わらない。減産しない。自分で独自路線を行く」とロシアのプーチンが反対、物別れになったのです。
そうすると生産競争、安値競争です。サウジアラビア王様が「売られた喧嘩は買う。ワシ等も増産で行く」と価格低下の環境を作ったためでした。
ロシア、サウジアラビアはアメリカと並ぶ3大石油生産国で、この内の2国が競争で値下げでは市場は混乱、トバッチリを受ける他の国も大迷惑です。ここでもうひとりの大物、米国が乗りだしました。一筋縄では行かない、ロシア、サウジに対して、「喧嘩は止めろ。安値競争など誰の得にもならない」と脅したりすかしたりして仲介したのです。
19日、この話が流れると「トランプ、プーチン、アラブの王様ー3大役者の揃い踏みだ。これはマトマル」と相場は再び上昇、25・22ドルまで戻しました。ここで、紛争は取りあえず、一休みです。
さて、この原油価格下落はブラジルにどのような影響を齎すでしょうか? ブラジルは海底油田を持ち、自国で消費する程度の原油は生産できます。それで価格が下がっても余り影響されないようにも思えるのですが、それがまた「そうではない」のです。
サウジなどは生産コストの安い油田を沢山もち、1バーレルが30ドルでも十分利益が出るのだそうですが、ブラジルの油田は海面下3000メートルもある「プレサル原油」ですから、その開発、維持に余計なお金がかかります。「コストの計算法にもよるが、バーレル30ドルでは採算割れだ」との説もあります。つまり、ブラジルは原油の価格が下がると損になるようなのです。
原油価格下落でブラジルが困るもうひとつの理由があります。それは今後ブラジルが売り出そうと計画している新規深海油田開発権の入札計画です。原油の価格が低ければ、生産コストの割高の海底油田を買い、経営しようという企業が現れない、可能性があります。
仮に参加者が居ても、安い価格を出しますから、権利者ブラジルに入る権利料(ロイアリティー)が少なくなります。このロイアリティーはブラジルでは連邦、州、関係市などで分配する%まで決まっており、これが少なくなると依存度の高いリオ州などは相当の痛手となると思われます。
たかがカゼでと言う無かれ、地方政府の懐にまで影響が出る訳なのです。済みません、本文、一旦、ここで終了さして下さい。中国カゼ勤務のためです。悪しからず御了承下さい。 (hhkomagata@gmail.com)