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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(241)

 これが弁護士の弁明だった。
 保久原正輝の主張で最も注目され、評価されたのはアララクァーラでは一度もテロ行為がなされなかった事実だ。
 臣道聯盟の会員はみな働き者で、性穏和で、農業、商業などの分野に従事し、前科は全くなく、彼と同じようにみなブラジル国籍の子弟がある。ブラジル発展のため尽くす国民なのだ。サボタージュやテロ行為を行ったり、ましてや、同胞を殺害するなど考えられない。
 なかにはこの地で経済的成功を収め、自己本位的になった人間もいるだろうが、多くは汗水ながし、猛烈に耕作にいどみ、そのけっか富を得た人たちだ。また、被告人保久原正輝は祖国を愛する習慣、風習を引き継ぎ、受け入れてくれた国、そして子どもたちの国、ブラジルを愛している。被告人はいかなる襲撃、テロに参加した覚えはなく、友人の勧誘で臣道聯盟に加入したと述べている。臣道聯盟のような団体に参加する日本人は当時の社会情勢から見て、お互いに協力しなけらばならないという観念をもったのではないだろうか?
 ここに、ある例を挙げてみたい。レオン・デュギー著作「主権と自由」にこう書かれている。「個人主義は人間は一人ひとり人格をもち、自分の意志をもって社会を構成するという理論。
 一方、社会連帯主義は社会の進化にともなって発生した個人化と社会化を調和の条件として把握した理論。ところが人間はある一定の社会に属さなければ生きていけないのだ」
 「1918年よりブラジルに在住、ブラジル国籍の8人の親、犯罪前歴なし、テロ行為なしの被告人保久原正輝に対し、裁判官に無罪判決を願う者である」
 弁護を全くくつがえせない申し分ない専門的、司法的方法が正輝を無罪に導いた。訴訟文を読みあげる者も無罪を認めざるを得なくなった。そして、390人の被告の多くが同じ判決を受けた。臣道聯盟の指導的立場にあった者や、殺害を自白した者は例外だった。一体、どこの誰が有罪の判決を受けなければならなかったというのか?
 正輝が長男のマサユキが一人前の大人になったと感じたのは息子が家に帰ったときだった。CPORの制服を着ていた。金ボタンの緑色の軍服の上着を着、その上陸軍マークの緑色のベルトを締めていた。まん中に白い星の刺繍が入った軍帽を被り、上着より少し濃い緑色のギャバジンのズボンと黒い靴下と靴を履いている。