新型コロナウイルスの感染拡大で日本でも経済活動が止まる中、在日ブラジル人が雇用を失う危機に直面している。ブラジル人が多く働く自動車関連工場などの製造業は、世界的需要の落ち込みと海外から機械の部品調達ができないために操業停止。長葱ブランド「葱王」で有名なティー・エスグループ会長の斉藤ワルテル俊男さん(52、二世)=埼玉県児玉郡上里町(かみさとまち)在住=は、「2008年のリーマンショック以上に深刻」と見通しており、更なる混乱は必至だ。
「経済が悪化すれば、先に切られるのは非正規雇用者。今はもう首切りが出てきている」。斉藤さんは在日ブラジル人を取り巻く状況について、辛い現実を思い浮かべて声を絞り出すように、そう語った。
リーマンショック後にいったん減ったデカセギだが、近年のブラジル経済の不況によって訪日就労は再び増加し、その多くが非正規労働者として工場労働に従事している。そこに今回のコロナショックは直撃した格好だ。無給の休業や雇い止め、派遣切りなどのケースが相次ぐという。
斉藤さんの周りにも深刻な影響は及んでいる。「東京で飲食店をやっている友人の中には、先月も客が来ずに潰れた所もある。有名な飲食店も閉店になる噂を聞いた。リーマンショックの時もこんな事はなかった」と厳しい表情を浮かべる。
もちろん、ティーエスグループも影響を受けている。人材派遣業が落ち込み、ブラジル人学校は日本政府からの要請もあって休校中で再開の見通しは立たない。だが、複数の事業を展開していることが功を奏し、農業の方は好調だという。
「うちの長葱はビニールにしっかり袋詰めしているので衛生的に安心。こっちが上手くいっているからまだ何とかなっている」と語るが、地元の上里町にもコロナ感染者が出た事で油断はできない状況が続く。
斉藤さんは、在日ブラジル人の言葉の問題、高齢化などを懸念として挙げ、「日本政府の支援も発表されたが、日本語なので理解していない人も多いと思う。生活に余裕がない高齢者も多く、生活がもっと苦しくなるのでは」と言及した。
だが、斉藤さんが最も恐れていることは、コロナショックで日本の生活が苦しくなったことにより、リーマンショックの時のようにブラジルへ帰国しようと考える人が出てくることだ。
「今、安易にブラジルに帰って何か商売をやろうとしても、長く国を離れて年もとっていたら上手くいかない。そうやって不幸になった家族を幾つも見てきている」と警鐘を鳴らし、「あの時の二の舞にならないように、苦しくても皆で一緒に耐えて頑張らなければ」と語った。
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在日ブラジル人の失業が現実の問題になってきた。斎藤俊男さんは「リーマンショックのときのように大挙してブラジルに帰ってしまうのでは」と心配しているが、あのときはブラジルの景気は良かったから、逆流現象が起きた。でも今回は違う。ブラジルも外出自粛令を受けて経済活動が半減以下となり、今後、大不況、大失業時代が到来するとの予想が出ている。そうなれば、ブラジルに帰ってきたところで仕事はない。今、訪日就労している人たちが帰っても、ブラジルで余計大変な思いをするだけ。リーマンショック後に日本政府がやったような外国人労働者帰国政策は、今回はやらないでほしいところだが…。