「国の雇用対策が機能することを信じているが、再び深刻な影響が出る場合は、支援団体を組織し、必ず支援活動を行う」――静岡県浜松市で伯国食品店「セルビツー」を経営する増子利栄(としえい)さん(70、二世)を先月23日にサンパウロ市内ホテルで取材した際、新型コロナウイルス感染拡大によるデカセギ雇用危機に対して、そう力強く語った。増子さんは2009年のデカセギ雇用危機時には『がんばれ!ブラジル人会議』(浜松市や浜松国際交流協会など8団体で組織)の代表として、デカセギ日系人の生活再建支援活動に奔走した経験がある。
世界金融危機の直後、2009年の不況時には「社宅を追い出され、文字通り路頭に迷うブラジル人が多数発生した。その日の食料も得られず、店には食べ物を恵んでもらおうとする人の行列ができた。このままではいずれ深刻な問題が起きると思い、市役所に何度も足を運んで支援を要請した。その結果『がんばれ!ブラジル人会議』が組織され、食料支援活動や生活再建支援活動を行うことができた」と振り返る。
今回の雇用危機に対しても「皆で協力し合って乗り越えていきたい」と語った。
増子さんはサンパウロ州アダマンチーナ市生まれ。戦前移住者の父・利秋さん(福島県出身)の農園で働いた後、ブラジル進出した日本の大手スーパー・ヤオハンに就職。その後独立し種苗卸業に従事した。
88年にはデカセギとして訪日し、岐阜県や静岡県での工場勤務を経て、JR浜松駅近くにブラジル料理店を開店。伯国食品の販売やパン製造工場の経営も行い、経営者として名を馳せた。
地元浜松市民と在日外国人の文化交流事業を数多く手掛けてきた。09年のデカセギブラジル人生活支援活動、11年の東日本大震災の被災地復興支援活動などが評価され、19年には浜松市から「第二回はままつ多文化共生活動表彰」を贈られている。
先月21日に開催予定だった全伯王将戦大会に参加するため、一時帰伯していた。コロナ災禍で日本行きの便が激減する中、2日に日本へ戻った。