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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(248)

 人波に混ざり、正輝の従兄弟のヨシアキがこの儀式を見守っていた。ネナと隣にすむシッコの問題以来、二人は仲たがいして行き来が途絶えていた。ヨシアキはロンドリーナに住んでいたマサコと結婚し、スタジアムに妻と同伴できていたのだ。マサユキを兄弟同様に扱ってくれた。正輝にひどく扱われたのに、ヴォトランチン街19番地の新居でマサユキの卒業を祝ってパーディーをするからと誘ってくれていた。家が広くないので、大勢は呼べないが、兄弟や友だちが集まるとのことだった。
「父さんもいくの?」とマサユキは聞いてみた。
 ヨシアキは「うん、話してみるよ」
 と答えた。卒業式の儀式のあとヨシアキは正輝のところに行って、パーティーのことを話した。従妹の招待を受けたいのはやまやまだし、むろん行くべきなのだが、どうしても行けない。岡田氏と娘といっしょに、サントアンドレに帰れなければならないと理由をのべた。けれども、招待には心から感謝した。これがきっかけとなり、二人の関係は元通りにもどったのだ。

 予備将校から少将補佐として将校になるには、軍官舎で少なくとも三ヵ月の訓練を受けなければならなかった。訓練中、官舎内の寄宿者に住みこみ、週に一度、帰宅することができた。ニーチャンはオザスコ地区のキンタウーナ本部の第4歩兵連隊に入ることにした。サンパウロ近郊の重要な連隊だった。隊長はエルヤレ・デ・ジェズス・ゼルヴィニ陸軍大佐だった。家族やその他の束縛から解放されたためか、訓練がおもしろいからか、寄宿舎での生活が気に入った。いままでとは全く別の世界だ。軍隊の階級の大切さ、そして、自分にも命令する権利があることを知ったのだ。
 少尉補佐になる訓練期間がすんだ後も、軍人の道を進みたいと父親を納得させた。内心、官舎に住むことで、医者となる義務から解放されるとも思った。衣食住の心配がなく、部隊を指揮することもできる。すでに任用試験に受かり、市役所の正式公務員として働いていたが、それ以上の給料がもらえる。もちろん、正輝は息子の意見に賛成した。
 ニーチャンは海岸の町、サンヴィセンテのアルフレッド・ピニェイロ・ソアーレス・フィーリョ大佐が指揮する第2軽装歩兵大隊に配属された。彼は40人近い兵士の指揮にあたるのだ。指揮下には少尉補1人、軍曹4人、伍長3人、その他の兵士たちがいる。