毎日青い空が見えて気温も快適、例年ならば「良い陽気になりましたね」と挨拶するところですが、今年はいけません。コロナウイルスのお蔭で一般庶民は「家庭内蟄居」です。
ニッケイ新聞も配送が始まり、これでQUARENTENA自粛も終わりかと思っていたら、何が何が、商店閉鎖、外出規制は5月末まで延長、逆に一層厳しい条件がつけられました。
これで外出を止められて困るのは、一般庶民だけではありません。来てくれるお客様相手で生活のカテを得ている小売商、食堂関係者は、「これじゃ商売あがったりじゃ、一体どうしてくれるんだ!」と不平不満のやり場がありません。
世間には本当の話も、得体の知れないフェイクニュースも、いろいろ入り混じって流れています。ブラジルがどっちへ動いているのか? どうなるのか? これからの正しい方向を見定めるためにも、皆さんと一緒にこの情報を整理検討してみましょう。
今週から変わる防疫策
5月初旬に終わる筈だった外出規制(QUARENTENA)は取り敢えず5月31日まで延長され、更に次のような点が厳格化されました。
▼屋外に出る時はマスクを着けること。
▼車の利用は・ナンバープレート末尾が奇数の車は奇数日(1、3、5、7、9)利用OK、偶数ナンバーの車は偶数日に利用OKとなりました。
これは出回る車の数を約半分に減らすことによって、人々の外出を減らそうとするのが目的です。適用範囲はサンパウロ市全域ですが、他の地域でも同様方式をとっている所がありますから、要注意です。
拡大止まらぬコロナウイルス
このように市民に不便を強いる規制策を策定したのにはそれなりの理由があるからです。
前回の規制で「家に留まって」と呼びかけたのに拘わらず、これがあまり守られなかったのがその一因です。
人々が住居内に留まる率(ISOLAMENTO)は60%位が目標だったのですが、多くの人がこれを守らず、指数は大体40%台、中々50%にも達しなかったのです。
この自宅滞留率(ISOLAMENTO)が55%―60%位になればウイルスの急拡散が止まり、罹患者の急増とそれに伴う受け入れ病院などのパンク(爆発)が防げるのに―というのがこの厳格化の別の一因です。 自粛への「もうこの辺で良いだろう」という市民の感覚を抑え込むことが出来なかったのです。
そんなこんなで、サンパウロでは疫病対応が出来る病床の数はほぼ満杯(UTI―85%)に達していました。これ以上患者が増えては十分な手当ても出来ず、助かるべき人もみすみす死なせることになるのです。
コロナ感染は人口密集地のサンパウロ州がダントツの1位ですが、現在、リオなどの大都市周辺(ファベーラがある)、あるいはブラジル東北部(セアラー、ペルナンブコ)、アマゾン地方(パラー、アマゾナス)など、大衆に衛生観念が乏しい地域で急速に数字が伸びています。
最近の全ブラジルの集計では1日当たりで感染者数が1万人、死者が881人(12日)を数えており、もうじき1千人を越すのではとすら言われています。つまり、感染ピークはまだこれから。死者数は間もなく、フランス、イタリアなどの先輩国を抜くと言われている状況です。
政府は何をしているか
政府もこのようなコロナ感染拡散を、手をこまねいて見ている訳ではありません。考えられる種々の手を準備、実行しております。
コロナ疾病対策は各州、市がその地域の実情に合わせ、計画、実施することになっており、サンパウロ、リオなどでは各知事が厳正な隔離、自粛策を実行して居ります。
ただし、州、市などではその対応資金に限りがあるので、この面では連邦の支援に大いに依存することになります。
一方、隔離、自粛による経済面への影響も甚大なので、政府としては種々の手を打っています。仕事が無くなり、困窮している貧困層に対しては早急に600レアル/月を3カ月間、現金支給の対策を取り、これは丁度1回目の配布を大方終えたところです。
仕事が減ったり、無くなった企業向けには別途低金利、無担保融資を提供したりして企業存続の策を講じています。今回、コロナ禍に対しては特別会計措置を講じ、当座の資金のめどはついたので、今度は大企業向けの、更に大型の市場、経済振興策を打ち出すと言われています。
また、金融面でも先日公定金利を0・75%P引き下げ、金利負担ゼロ水準にまでしています。政府・中銀としてはこれにより市中にお金を回転させ、景気を下支えしたいという狙いでしょう。
ところで今の大統領はニュースの中心になるのがお好きなのか、切れ間なく色々〃面白い話題〃を提供して、マスコミを賑わしています。その話は国の方向にも関わる内容なので、以下、若干ご報告致しましょう。
マンデッタ保健相更迭
医師でもあり、連邦議員でもあるマンデッタさんは医療界の王道通り、コロナ病の隔離、分離策を取り、これを国民に分かりやすく説明、PRして好評でした。
これに対し、一見スポーツマンタイプの大統領は、「たかがカゼもどきの疾病に過度に心配することはない。医者のいう事だけを聞いていて長い間仕事もダメ、外出もダメなどと言っていてはコロナ病の前に金欠病で本人の方がダメになる。そうだろう、もっと元気を出して、病気などは跳ね返してしまえ」と主張して、集まった群衆の前でマスクもせず、相手の手や体に触れて、元気な姿を見せました。
これでは保健相が口を酸っぱくして説明している「マスクをしなさい、密集、密閉は避けなさい」とは正反対のお手本です。「一体、政府の方針はどっちなんだ。隔離、自粛と解放とどっちを推すのか?」と疑問をぶつけられ、批判されました。
この行き違い(閣内不一致)、結局マンデッタさんが辞任してひとまず決着しましたが、何とも後味の悪い幕引きでした。
モロ法務・保安相の辞任
クリチーバの連邦裁判所判事として大型汚職、事件を摘発、断罪したモロ氏は「良くやってくれた」と全国の人々から支持を得て、ボルソナロ内閣に鳴り物入りで入閣しました。
ところが同大臣管轄の連邦警察の人事権をめぐり、モロ・ボルソナロの対立が生じたのです。
ボルソナロは自分が住んでいるリオ地域の警察くらいは自分の息の掛かった者に任せたいとしたのですが、モロ氏は物事をきちんとすることが好きな様で「警察は法に従い国の安全、安心を守るために動く。政治(身びいき)の介入は困る」とボルソナロの要望に応えませんでした。
一説には、大統領の息子らの不正所得疑惑やフェイクニュース拡散疑惑や、マリエレ・フランコ市議殺害事件に同家族が関わっているという疑惑の捜査がリオ連邦警察で進められている関係で、大統領はそのトップ人事を掌握することで、家族に不利にならないようにしているとの見方も出てきています。
結果としてモロ氏は辞任に追い込まれ、あれ程こだわっていた連邦警察庁長官、リオ連邦警察トップも入れ替えとなったのです。
ここまでを見ると「大統領の勝ち」の様に見えます。ですが「司法(警察)のやり方に政治が介入するのは憲法違反だ。怪しからん」とする声が強くなり、逆に「そんな大統領なら辞めさせてしまえ」との動きが議会筋を中心に活発化しました。
とどのつまりは政治力?
とはいえ、変な言動が多いからと言って、一旦選挙で選ばれた大統領を簡単にはすげ替えられない様になっています。
反大統領グループは十数件にもなる大統領罷免(IMPEACHMENT)の申請を議会に提出していますが、いろいろな事情があり「はい、それでは」とはいきません。議会での審議議題にも挙がっていません。
他方、大統領側もこの動きは承知していますから、種々の対策に動いています。一番効果のあるのは議会で多数派工作をして罷免議案を否決することです。
このため、議会内の有力グループ『セントロン』に支持を働き掛けています。セントロンはご存じ幾つかの保守系政党からなるグループですが、多くの議員(票)を傘下に収めているので強い。前の政権では利権に絡んで大物が暗躍し、多くの逮捕、有罪判決者を出しています。
政府は「この罷免審議が起きても何とか途中で潰してくれ。万一、議決になったら反対して否決してくれ」と頼みます。セントロンは「あんたの望みはわかったよ。で、反対給付は何を出すんだ」とネゴになります。
すでに大臣のすぐ下ぐらいの重要な役職などが提供されています。ですが、セントロンの要求はもっと上、大臣自身とか政府系銀行の総裁とかもっと「おいしいポシション」を求めています。
これに対して、「ボルソナロは利権取引、汚職の旧い政治形態をぶち壊す。きれいな新しい政治をやる」と言ったから支持したのに、「何だこのざまは。結局、昔のやり方に逆戻りじゃないか」と、今まで支持してきた有権者に強く批判されています。
コロナ病対策だけでも大変なのに、本当なら、大統領以下、国全体が一緒になって事態解決に取り組まなければならないのに、肝心の当時者がこれでは、「なんてこっちゃ…」です。
ここまで聞いていた八さんが口を挟みました。「大統領だって、その座を失えば『ただの人』になる。そりゃ必死で座を守ろうとするのは人情だろ」。
まあ、そうですね。で、それでどうなるか、です。
ここまでの説明で、大体の状況は分かったが、これからどうなるんだ? E DAI!(それで!)、結論を申さなければなりません。
コロナウイルスを完全終結させるには治療薬、ワクチンの開発が必要です。『爆弾が落ちてくるから防空壕に逃げ込む』のでなく、ウイルスを退治できる数少ない方策です。でも、まず短時日でこれが出てくる望みはありません。
もう一つの解決策は特効薬です。希望が持てそうと名前が挙げられてきたクロロキナ系の薬も、テストした結果、どうやらあまり効果は無いということが分かってきました。
日本の期待のアビガンも増産していますが、日本政府はその効果に自信がない。サンプル程度を諸国に供与して試してもらっている程度です。しかも「副作用が出た、弁償しろ」と言われるのが怖いので、自分が直接供与せず、世界保健機構(WHO)を経由して無償供与です。
ということで、当面のブラジルのコロナ対策は、つぎの二択になります。
(A)保健学者が言うような隔離、避難策で行くか?
(B)ボルソナロ氏が言うようにある程度の行動開放をして、民衆の働きたい意欲にこたえるか?
ですが、残念もう先を述べる時間、紙面が無くなりました。申し訳ないですが、この答は次の機会か、または専門家の偉い方の見解でお願いします。(感想などをお寄せ下さい=hhkomagata@gmail.com= )