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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(261)

 ジュンジあるいはジュンとよばれていたジョージはサンパウロ大学工学部に入学したばかりだった。入学の試験勉強に影響を及ぼさないよう、父親の病気が重いことをだれも彼に明かさなかった。
 3人はすでに結婚していた。セーキはアパレシーダ・カンヂダ・デ・モラエスと結婚し、セルジオという息子をもうけた。ハキオは海老原スミエと結婚し、ミルナ・マサエという娘をもうけた。マサユキは平良テレーザ・キオコ結ばれた。
 セーキの結婚は家族に大きな支障をもたらした。相手が「ガイジン」だったので、正輝も房子も結婚を許さず親子との縁を切ることになってしまったのだ。セーキは結婚のため家を出、そのため絶縁状態となった。重態となった正輝は「死ぬ前に一度会いたい」といって長男に消息を探させた。
 正輝が手術のため入院していたサントアンドレのクリストヴァン・ダ・ガーマ病院で二人は何年かぶりに再会し、和解しあった。父が感激のあまり泣いたが、そのような姿をマサユキは一度も見たことがなかった。
 日本人の習慣にはあまりないことだが、ハキオは兄より先に結婚した。妻のスミエはマサユキの親友セージとマサオの妹だ。スミエの父、海老原袈裟吉は正輝が移住したとき乗った若狭丸の同船者だったのだが、そのことを知ったのは子どもたちの結婚式が迫ってからのことである。
 マサユキがテレザとの結婚を早めたのは、この先、家から出られなくなりそうな父親に式に出席してもらいためだった。そして、このとき撮ったのが正輝の最後の写真となった。
 マサユキは市会議員時代に市役所を退職し、私企業に転職した。ラミナッソン・ナショナル・デ・メタイスという会社の専務副社長にまで昇格していた。また、彼や兄弟の母校サントアンドレ経済経営大学の学長の職を務めた。退職後もISO9001(国際規格協議)システムの証書獲得のコンサルタントとして仕事をつづけている。カルラ・キヨミ、ファビオ・タダシ、アンドレイ・アケミ、エドアルド・ケンジの父親、イザベラ・ミユキの祖父である。