ホーム | 連載 | 手づかみで体得したブラジル=19年度交流協会生の体験談 | 手づかみで体得したブラジル=19年度交流協会生の体験談(7)=小玉智之=ブラジルで酒造りを経験

手づかみで体得したブラジル=19年度交流協会生の体験談(7)=小玉智之=ブラジルで酒造りを経験

東山農場でのイベントにて吟醸酒の説明を行う様子

東山農場でのイベントにて吟醸酒の説明を行う様子

経歴:小玉智之。秋田県在住、27歳。2018年に大学を卒業。家業である小玉醸造株式会社へ入社した。小玉醸造株式会社は日本酒や、味噌、醤油などの発酵食品を1879年から製造する秋田の老舗企業。東広島市の酒類総合研究所で酒造りの研修を経て、2019年にブラジル日本交流協会(http://anbi2009.org/)の研修制度でブラジルの東麒麟社にて研修を行った。

 ブラジルと私の縁は二つある。一つは50年前、母方の家族が父親の転勤でリオデジャネイロに暮らしていたこと。母はブラジルの思い出をよく話し、ボサノバなどの音楽をよく家でかけていた。私は知らずにブラジル文化を体験していた。
 もう一つは、1975年に祖父が家業の酒造りで、ブラジル産酒『東麒麟』の技術指導に携わったこと。当時、小玉醸造株式会社はキリンビールの卸販売を行っていた。その縁で麒麟麦酒社から東麒麟の技術指導を依頼され、技術者へ指導を行ったのだ。
 私は家業から離れて社会経験を積むことを望んでいた。ブラジルでの酒造り研修は家族の後押しや東麒麟社のご厚意のお陰で実現に至った。
 研修に臨むにあたって、「日本からもっとも遠く離れたブラジルでは清酒をどのようにして製造しているのだろうか。日本食はどのような理解がされているのだろうか」との疑問が湧いた。今回の研修ではそれらを知ることが目的となった。
 研修では主に現場での製造作業に参加した。日本の気候に適した酒造りの製造行程を東麒麟社では採用し、その工程が脈々と受け継がれていた。出来る限り日本の環境に近い形で製造を行うために設備投資がされていたことには驚いた。
 具体的な例を挙げれば、酒工場は品質維持のために工場全体を冷蔵庫のようにして低温状態を保っている。日本から酵母や麹菌を輸入して酒造りをしている。作業にあまり機械を導入せず、手作業を中心として細かな管理が出来るようにしているといったことである。
 研修の後半期では、東麒麟吟醸酒の品質向上の施策を任されるようになった。日本で勉強してきた知識と経験を生かしながら、従業員の方達と作業を行った。テスト製造を繰り返すにつれて味や香りの向上を見て取ることが出来、それを作業現場の人たちと共有出来たのは何物にも代えがたい達成感と喜びがあった。
 品質向上が見えて来て、また現場とその感覚を共有出来たという段階で一年の研修が終わってしまい本当に残念に思っている。
 日本食については、元々ブラジルには日本人移民が多いという事前知識はあったので、ある程度は浸透しているのだろうと想像していた。しかし、実際に来てみると想像以上にブラジル文化のなかに日本文化が見られ、とても驚いた。
 例えば、手巻き寿司を提供するテマケリアは町の至る所に見つけられ、清酒を使ったカクテルであるサケピリーニャは数多くのブラジルレストランでも提供されている。和食レストランも中華料理屋などよりも数多く見られ、とても意外であった。
 東麒麟でブラジル人に日本食や清酒の説明を行うイベントを開催した際には、直接その感想を聞くことが出来たのは印象深い体験だった。
 この研修を通して、一番の収穫と思っているのは、日本では味わえない達成感を経験したことだと思っている。私自身は最初ポルトガル語が使えず、異なる文化を持つブラジル人たちとうまくやっていけるのか始めは不安だった。
 しかし、一年間一緒に仕事を行い、プロジェクトに共に関わり、その目標を達成出来たというのは、日本では到底味わえない経験であり、一年を通して自分にはこれだけの可能性があったのだという自信に繋がってきていると思う。
 もしも今後ブラジル、東麒麟社で機会があるとしたら道半ばで終わってしまった酒造りの品質向上を続けたい。更なる達成感をブラジル人と一緒に味わうことが出来れば嬉しい。(終わり)