全伯の日系団体は資金集めのイベントが開催できず、会員の会費支払も滞りがちとなる中、日本語学校の諸経費、施設従業員への支払いなどに困っている。そんな中でも聖南西文化体育連盟(UCES、山村敏明会長、25団体)は、以前から進めていた『聖南西基金プロジェクト』を前倒しして切り崩すことで、この難局を無事に乗り越えた。山村会長は「これも提案者である天野鉄人さんのおかげ。コロナが起きるとは誰も思っていなかったが、基金のおかげで無事に皆がそろって乗り越えられる。本当にありがたい」と謝辞を示した。
聖南西基金プロジェクトは、ピニャールに住む資産家の天野氏が提案した。傘下団体が規模に応じて資金を出し合い、それに天野氏が寄付を足して基金を作り、銀行で利子運用して数年掛かりで300万レに増やす計画だ。
山村さんは電話取材に対し、「まさかパンデミックが起きるとは。こんな形で基金が役に立つとは予想していなかった。コロナ禍が始まってから全団体がイベントや活動を休止したので収入が入らなくなり、日本語学校を持っている団体では運営費に困るようになり、会員の会費滞納も目立ってきていた。カゼイロ(管理人)や門番などを置く大きな文協ほど大変」と窮状を訴える。
5月からオンライン会議を始めた同連盟は、傘下団体の実情を知り、対策を練り始めた。山村会長は、「1カ月ほど前から4回ほど天野さんの所に通って話し合いをもち、5日にこの話が決まった。そして昨日(8日)に各団体に送金しました」と経緯を説明した。
傘下18団体が今までに基金に拠出していた約30万レアルの資金を配当として戻すことで、天野さんと合意。実際に8日に送金した。多いところでは3万6千レアルが振り込まれた。山村会長は「あちこちから電話がかかってきて『本当に助かった』と言われた」という。
配当を払ったことで目標額を250万レアルに下げた。それでも現在、天野さんの拠出分や立て替え分として170万レアルほどが残っており、これはそのまま利子をつけて運用される。今後は、利子分からも連盟本体および参加団体への配当金が払われる。
これを機会に、いままで基金に拠出してなかった団体にも株(Cota)を配当。昨年末に入会したばかりのシッポー文化体育協会にも5株の権利が付与された。株は現金化できないが、株数に応じて利子から配当金が払われる。これで名実ともに傘下全団体の基金となった。
山村会長は「天野さんがいなければ基金はできなかった。本当にありがたい」と繰り返した感謝の言葉を述べた。
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聖南西基金は高金利時代に始まった。2016年1月には14・25%あったSelic(経済基本金利)が急激に下がり、現在は3%と実質的なゼロ金利になった。今週開催される通貨審議会(Copom)では2・25%にするのではとの声も聞こえており、2~3%のインフレ率をひけば、ブラジルもマイナス金利の時代に入りそうなすう勢だ。その関係で、利子で300万レに増やすにはより長い年数が必要になり、その分、会員が高齢化して活動が停滞する恐れがあった。そこで以前から、目標金額を250万レに下げて、運用益の一部を使い始める話が出ていた。でも、まさかコロナ禍で配当金を払って支援することになるとは、誰も予想していなかった。持つべきは、いざという時のための「備え」か。