「300・ド・ブラジル」の主宰者、サラ・ウインター容疑者が逮捕された。彼女のことはブラジルの一般メディアが大きく取り扱う前から本コラムで「大統領府前で武装して立てこもっている危ない集団がいる」として紹介したが、それから約1カ月後の逮捕となった。
コラム子からすると、このサラこそが、現在のボルソナロ大統領とその支持者たちの気分が産み落とした典型的な産物のように思えて仕方がない。それは具体的に言えば、自分たちだけが一方的に信じる“正義”とやらで革命を起こそうとする、イマジネーション(空想)の世界の住人だ。
そうでなくとも、ボルソナロ大統領には、大統領選の頃から、あたかも自分が「歴史劇の英雄」であるかのように振る舞っているところがあった。「世がポリティカル・コレクトネス(人種・宗教・性別などの違いによる偏見・差別を含まない、中立的な表現や用語を用いること)を叫ぶ中、長年の宿敵の労働者党(PT)を倒して、自分こそが保守の王者になるのだ」という妄想は、大統領選キャンペーン時の刺傷事件が拍車をかけたように思う。というか、そもそもあの事件こそが映画のシナリオのようでもあった。
そんな思い込みは、いざ大統領になって、更に強くなったような気がする。自分が考えたように物事が進まない現実、予想以上に上がらない支持率、他国から浴びせられる批判が、より自分を誇大に見せようとする方向に向かわせているのかもしれない。
三権分立を無視した言動や、やたらとヒトラーやムッソリーニを引用したような言動が多いのもそういうことではないか。
もしかして、コロナウイルスに関して必要以上に「大したことない」とする姿勢を崩さないのも、「俺は他の首脳とは違う」というのを見せつけようとする気持ちが、空回りしている結果なのかもしれない。
そして、それらはますます同氏を厳しい批判に晒す方に働いている。
ただ、大統領の持つそうした陶酔感は、これまた「自分こそが一番の支持者」と、似たような空想を抱きがちな熱狂的な支持者たちを引きつける。
そういう人たちが、反連邦議会・最高裁のデモに参加したり、大統領が政敵と見なした人物をネットで攻撃することに加担し、コロナの入院患者の臨時病院へ侵入行為を働いたりもしている。
サラ・ウインターはそんな、独裁者の到来を夢見る人の極端な象徴だったのだろう。実際にネオナチ思想に憧れて、極右集団の台頭のあったウクライナに飛んで軍事訓練まで受けている。そんな彼女は、「今こそ自分が革命の女神になれるときでは」とでも踏んだのだろう。
ただ、大統領自身が新党を完成させるメドも立てられず、ありもしない軍事クーデターをほのめかして騒ぎを起こしているのと同様に、サラの反乱もお粗末だった。「300」と銘打ったグループでデモに参加したのは30人ほどで、警察に退去を命じられて抵抗してやったことと言えば最高裁に花火を発射しただけ。
サラは、逮捕されればされたで今度は「無実のヒロイン」きどりをきめこむ。だが「300」解放を求めた抗議運動には、グループ内の仲間でさえ20人しか集まらず、世間の声は失笑ばかり。
彼女が本当に「革命のヒロイン」なら今ごろ、逮捕に動いた最高裁や警察が国中の敵にならなくてはいけないところだが、そうはなっていない。逆にサラは弁護士の一人を失い、勾留延長で女性刑務所に移された。
国民のあいだでは、軍事クーデターを望まない声がここ数年で上昇し、最近ではその世論が70%近くにまで上がっているという統計結果も出ている。そんな報われない現実の中で、自己陶酔の革命家気分に浸っても、所詮は独りよがりの粋を出ない、ということだろう。(陽)