今年の全国市長選は新型コロナウイルスの影響で、通常より1カ月遅い11月に行われるが、今の時点で早くも「異変」が現れている。しかも、それは「左派」に顕著に出ている。「左派の雄」のはずの労働者党(PT)がピリッと来ないのだ。
しかもそれは2016年のように「ラヴァ・ジャット作戦の余波で」ということではない。現在の同党の問題はそれとは別のところであることが明るみになっている。
それはサンパウロ市、リオ市という、国を代表する2つの大都市での選挙対策の甘さに顕著に現れている。PTはサンパウロ市の候補にジウマール・タット氏を立てたが、先日発表された世論調査ではわずか1%の支持率に終わり、早くも暗雲が立ち込めている。
それとは対照的に、急進左派の社会主義自由党(PSOL)の18年の大統領候補でもあったギルェルメ・ボウロス氏が11%の支持を獲得。左派内の争いでも、中道左派の前サンパウロ州知事マルシオ・フランサ氏(ブラジル社会党・PSB)の支持率14%に迫りつつある。
なぜ、こういうことが起きてしまうのか。それはズバリ、PTのネット戦略の脆弱さにある。ボウロス氏は若いだけにネット対策に長けており、ツイッター、インスタグラムで共に100万人に近いフォロワーを誇っている。それに対してタット氏は、その両方共に1万人もフォロワーがいない。
これではネットでの訴求力など期待できない。一方のPSOLは党内のサンパウロ市市長候補選で破れたサミア・ボムフィム下議もそれぞれ30万人以上のフォロワー数を誇っている。ボウロス、サミア両氏共に、市内の若い左派集団が集まる集会には必ずと行っていいほど顔を出し、政治イベントも頻繁に行なっている。
PTはリオ市でも苦戦している。当初、これといった候補が見当たらなかったこともあり、16年の選挙で次点と大健闘したPSOLのマルセロ・フレイショ氏とのシャッパを組もうとしたが、党内の反対や他の左派がつかなかったことで断念。
そこでPTは独自候補を立てようとしているが、それがベネジータ・ダ・シウヴァ氏だという。黒人女性として尊敬され、リオ市長も副からの昇格でつとめるなど、実績はあるが年齢的には78歳…。副候補ならともかく、正候補では厳しいか。
その一方で、18年大統領選3位のシロ・ゴメス氏の民主労働党(PDT)はPSB、レデと組んでマルタ・ロシャ氏を世論調査の上位に送り込んでいる。PSBのリオ支部と言えば、下院内の論客として評価を急速に上げ、次の議長候補とも呼ばれ始めてきているアレッサンドロ・モロン氏を擁すところ。シロ、モロン両氏の推しが効いているようだ。
そのほか左派の話題としては、マラニョン州知事のフラヴィオ・ジノ氏のブラジル共産党(PC do B)が、PSB、レデと合併し、PTに対抗する別勢力を築こうとする動きがある。これにPDTが加わろうものならかなり大きくなる。
PTはここに来て「サンパウロ市候補にハダジ氏を」という声もあがってきているようだ。だが、それこそが間違いの始まりだとコラム子は思う。18年大統領選次点のハダジ氏はたしかに現状、左派きってのリーダーではある。だが、ルーラ氏の後継者をハダジ氏の一本化だけでしか考えてこず、党内で大きなライバル意識も育み損ね、ネットで市民とつながろうとする努力もしてこなかった。
そこには、ルーラ・カリスマ信仰、14年間も政権を担ったという慢心、それ以上に、左派最大政党として長年君臨してきた油断があるように思う。むしろ克服すべきは汚職問題より、そうしたところではないだろうか。(陽)