新型コロナウイルスの影響で、サンパウロ市は今年7月末までの30週間に、昨年同期比で23%増の死亡者数を記録した。このデータは、サンパウロ市民の死亡日時を調査し、各市区町村事務所の死亡情報改善プログラム(Pro-AIM) からの情報に基づいて作成されている。サンパウロ市におけるコロナ死者数は5日、ブラジル全体の10分の1、約1万人を越えたばかり。
調査によると、7月25日までに確認されたサンパウロ市の死亡者数は5万799人。2019年は4万1226人、18年は3万9820人だった。人口が年々増加しているため、毎年の死亡者総数が数%上昇するのは一般的なことだが、今回の分析では新型コロナウイルスの影響により、予想をはるかに上回る1万人近い死亡者数増加が確認されている。
しかも3月7日までの最初の10週間は、例年と比較しても死亡者数に大きな変動はなく、その差は数百人程度だった。しかし、ブラジルでコロナ感染拡大が始まった11週目から30週目までの間に約1万人増の死亡者が出ている。
正式に確認された約1万人の「新型コロナ死亡者」に加え、サンパウロ市には「新型コロナの疑いのある死亡者」があと5650人いる。「疑いのある死者」を分ける措置は、遺体を処理する従業員の感染を防ぐためのもの。これらの被疑死亡者がコロナの公式統計に含まれるには、陽性反応の検査結果が出た後になっている。
市内では3月12日に最初の新型コロナ犠牲者が出たが、これは6月末まで正式には保健省の統計には組み込まれていなかった。「疑いのある死亡者」の大半は白黒がはっきりないままになる場合がほとんどだという。その結果、実際には他の原因で亡くなったが、コロナ被疑があったために適切な形での死別ができなかったケースがたくさん起き、遺族に影響を与えている。
たとえば4月、自宅を出て病院に行く時に心臓発作を起こした建築家のフェルナンド・プジョル氏の家族は、コロナ禍の間接的な犠牲者だ。36歳で結婚し、13歳の双子の娘がいる同氏は、外出自粛措置が取られた時に在宅勤務を始めたが、その時は新型コロナウイルスの症状はなかったという。
妻タチアナ・レストレポさんによると、夫は高血圧のために薬を服用していたといい、「夫が『気分が悪い。胸が痛く冷や汗をかいている』と言ったので病院に行くことにしたのですが、エレベーターの中で心臓発作を起こしました」と振り返る。プジョル氏は生命反応が無いまま病院に運び込まれ、同地域ではコロナ感染がピークに達していたので、医師たちはコロナ検査を決定した。この措置が原因となり、同氏の死亡診断書には「新型コロナウイルスの疑い」と記載されたという。
タチアナさんは「葬儀は、新型コロナウイルスであるかのように棺を封印した形で行われ、通夜も祈りの言葉を言うこともできませんでした。とても優しくて、偉大な父親であり、偉大な息子であり、偉大な夫でした。一番辛かったのは、アブラッソ(ハグ)もできずに埋められたことでした」と嘆いている。
1週間後に出た検査結果は陰性だった。家族は登記所で死亡証明書の文書を修正するために100レアル以上の料金を請求された。だが死亡診断書には今でも「疑いがある」と書かれているという。
ハーバード大学保健学部の人口統計学教授マルシア・カストロ氏は「理由もなく大量の死亡が発生することはありえない」と警鐘を鳴らす。ブラジルや数カ国の大学の研究者による国際コロナ感染症研究グループ「Observatório Covid-19 BR」にも参加している同氏は、死因判明の遅れを考えると、「本当はもっと多い事すらありえる」と警告する。「新型コロナウイルス以外の他の病気なのかどうか、きちんと死因を分析するには、1年かそれ以上の長い時間がかかる」と見ている。
しかし同教授は、今年の死亡者の多くは、パンデミック時であっても、ブラジルの統一保健医療システム(SUS)をもっと適切に利用できていれば少なくできたと見ている。コロナ患者が殺到している状態だと、それ以外の患者が病院に行くのを控える傾向があり、その結果、自宅でなくなった人も多い。コロナ専用ではない医療施設をもっと適切に活用できていれば、もっと死亡者が少なかった可能性があるという。