ペドロ1世が「独立万歳、自由とブラジルの分離独立万歳!」と決起を呼びかけたことで知られるイピランガの丘に立つパウリスタ博物館は、2013年から改修のために閉館中。その新館長に7月2日、小野ロザリアさん(サンパウロ市、二世、56歳)が日系人としては初めて就任した。イトゥー市にある共和党博物館( Museu Republicano “Convenção de Itu”)の館長も兼任する。2年後、ブラジル独立200周年の2022年9月までに、絶対に再開館するという特命を帯びている。任期は24年までの4年間。
「ブラジル独立200周年にむけた非常に重要な時期に仕事を引き受けてくれたことに感謝します」――サンパウロ州立総合大学(USP)のヴァハン・アゴピヤン学長は、そう小野館長に励ましの言葉を贈った。
正式名称は「USPパウリスタ博物館」(Museu Paulista da Universidade de São Paulo )だが、一般的には「イピランガ博物館」で通っている。小野さんは22年9月に向け、独立200年記念のパウリスタ博物館再開館と共和党博物館100周年記念改修という重要な二つの事業に携わる。
小野さんは「以前の博物館より幅広い人に来てもらえるようにしたい」と本紙の電話取材に意気込みを語った。2013年に閉館する前は年間約30万人の入場者を誇ったが、それを2倍にしたいとの考えている。「期待に応えられるように、再開準備にむけて頑張りたい」と日本語で話した。
小野さんは2016年から今年6月まで同館副館長を務め、18年から20年の間もUSPキャンパス内建築施設管理責任者として外部との会議を行うなどの役割を担ってきた。主に建築の防火に関する研究を行う建築技術学科の教授で、建築のエキスパートだ。
イピランガ博物館は130年前に建築されて以来、大きな改修工事をしてこなかった。そのためトイレなどの設備などが、車いすの人や障碍者に対してバリアフリーになっていなかった。増築改修工事にあわせそのような近代化を進めていく。
同博物館は22年9月に「ブラジル独立200周年記念」式典の会場となる。完成を間に合わせるためコロナ禍中も工事が止まらないよう感染対策を取りながら進められているという。「現場に入る際の体温測定や、風邪や体調不良があれば休ませる」ほか、「1週間ごとに作業員の10%にあたる人数の定期健診を行っています」と万全な体制で改修工事を進めている。
博物館改修・増築工事では、バリアフリー化や防火・インフラ設備、安全性を現代基準まで上げるほか、展示面積を以前の約3倍、5456平方米に拡大する。短期・長期展示を行うためのスペースを43区に分ける。
企業から文化奨励法を用いた資金援助を受け、予算1億3950万レアルが投じられており、ブラジル国内企業や銀行のほかホンダも資金援助を行う。6月に改修プロジェクト運営委員会が支援企業の代表者らと会議を開き進捗状況を発表したという。
小野さんは1987年、USP建築・都市計画(FAU)の学位を取得し、91年に名古屋大学で工学修士号取得。97年にFAU博士号取得。91年から2003年まで技術研究所(IPT)の火災試験所研究員として勤務。03年から教鞭をとりはじめ、建築学科の技術部長を2期(2011年~2013年、2013年~2015年)務めた。
大耳小耳 コラム
◎
イトゥー共和党博物館も築100年経過している歴史的な建造物だ。帝政時代、共和政体への革命を夢見ていた共和主義者たちが、初めて会議を開いた建物として知られる。こちらも建築から大きな工事はされておらず、エレベーターなどがないため、車いすの人や障碍のある人が入れなかった。そのためイトゥーの方も来年頃から大規模改装を行い、設備のバリアフリー化、安全性を近代基準に引き揚げる予定だ。小野さんによれば「こちらは規模が小さいため1年ほどで終るのでは」とのこと。