8日、国内で2、3番手の視聴率のテレビ局SBTは、女性看板キャスターのラケル・シェヘラザーデの解雇を発表した。これに対し「ついにボルソナロ政権による検閲行為、開始か?」と見る向きが少なくない。
その前触れがないわけではなかった。SBT社主は、一介のフェイランテから成り上がったブラジル放送史に残るテレビ局オーナー兼人気司会者で、屈指の大富豪として知られるシルヴィオ・サントス氏。同局のポリシーとして「政治的なことは表向きには言わない」ことにはしているものの、軍政支持者だったことは度々言及されており、元軍人のボルソナロ氏が大統領になって以降、接近が目立ち、公の式典などで同席する姿もしばしばあったほどだ。
シルヴィオ本人以上に熱烈にボルソナロ氏を支持しているのが、四女でタレントのパトリシア・アブラバネルだ。彼女は「神がボルソナロ氏を大統領にした」とまで言い切るほどの熱烈な信者。
その縁もあってか、彼女の夫である下院議員、ファビオ・ファリア氏は6月、ボルソナロ氏に通信相に指名され就任した。彼自身はボルソナロ氏の熱烈な支持者というわけでもなかったが、所属が社会民主党(PSD)で、中道勢力「セントロン」に接近したかった大統領にとっても都合が良かった。
ただ、「テレビ局社主の娘婿」が通信相になってしまっては、いくら「中立」を主張しようが、局のイメ―ジはどうしても決まってしまう。以前から、どちらかというと「保守寄り」のイメージが強かった同局は、余計に反ボルソナロ的発言がしにくくなった。そのことはファリア氏が就任のときから指摘されていたことだ。
その流れから予想される通り、かねてから公にボルソナロ氏を批判していたシェヘラザーデ氏が局から追い出されてしまった。そんな彼女とて、ボルソナロ氏が出てくるまでは「右翼姫」のあだ名をつけられるくらい、熱心な福音派のキャスターとして知られていた。その彼女でさえ、女性蔑視的な言動でも知られるボルソナロ氏とは反りが合わず、大統領選の前から批判を繰り返していた。
ボルソナロ氏への否定的な物言いが理由で解雇された有名ジャーナリストは、目立つ人では彼女が初めてだと思うが、これまでマスコミには叩かれ放題だった大統領としては「してやったり」というところか。
ボルソナロ氏としてはメディアに言う事を聞かせたいところだ。これでSBT局を、同局と視聴率2、3位を争うウニベルサル教会系テレビ局「レコルデ」と並んで配下に置いたような気にもなっているだろう。
ただ、この先の道のりは長い。大統領の宿敵となっているグローボ局は、ボルソナロ氏がどんなに攻撃しようが、視聴者数はSBT、レコルデの2~3倍はある。看板のニュース番組「ジョルナル・ナシオナル」は大統領やその一家を叩けば叩くほど高視聴率が出るデータもある。
また、シェヘラザーデの今後も気になるところ。かねてから大人気の彼女のこと。「拾う神」なら苦労はしないだろう。そこでの大統領への反撃が見ものだ。(陽)