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中島宏著『クリスト・レイ』第51話

 貧しい日本からの移民たちが、その限られた収入の中から、お金を出し合って建てたものである以上、それが一種変わった形のものであったとしても、そこには何の不思議もなかった。

 たとえその教会が粗末なものであったにせよ、彼らキリスト信者にとって重要なことは、そこに祀られているキリストの像であり、彼らの存在を明確に証明することができる、ある形を持つものであった。要するに、ブラジルに移民してきた隠れキリシタンの人々にとっての心の拠り所を、形として表しているものが、このクリスト レイ教会であったといえた。それが今、臨時的なものから本格的な形に姿を変えようとしている。

 それはもちろん、今までのような木造のものではなく、しっかりとした土台に積み重ねられて行く、赤レンガで造られた立派な、そして本格的な教会であった。

 今、造られつつあるものは、仮にそれが大きな町の中に建てられたとしても、何の違和感もなく、その環境に決して引けを取らないというような雰囲気を持っている。はっきり言ってここに現れ始めている建造物は、日本から移民して来てずっと農業に携わって来た人々が造るものとしては、考えられないほどレベルの高いものであり、そういう意味での意外性というものが、そこには明確にあった。

 もちろん、これだけの本格的な教会を建てる以上、まったくの素人ばかりの集まりであれば、最初からそれは不可能であろう。あの二人のドイツ人の神父の他にも、この教会を建築するために、四年ほど前から数名の要員が、あの福岡県今村町から二度ほどに亘って派遣されて来ている。彼らはすでに日本で、あの今村教会の建設に携わっており、経験も積んでいるから、今回の新しい教会の建設については心得たものであった。

 彼らが、新しいクリスト・レイ教会を建造するにあたっての中心人物になるのだが、無論、彼らだけですべて出来るわけではなく、建設にあたっての実際の労働は大半が、このゴンザーガ植民地で生活する、日系移民の人たちによって行われた。それは、週末だけでなく、普通の日でも交代で多くの人々が奉仕という形で働いたのである。

 このゴンザーガ植民地の中でも最も低地にあたる一帯には、かなり良質な粘土層があり、それを使ってレンガを試作したところ、かなり頑強なものが出来上がった。

 しかも、この粘土層の面積は結構広く、この教会を建設する上ではまったく問題のない量が取れることも分かった。もっとも、この粘土層は教会建設の大分以前からその存在が確認されており、すでにこの植民地内での諸々の家屋の建設に利用されて来たという経緯があった。

 話の順番からいえば、この粘土層、さらにはそこからレンガ作成が始まったのが先で、その後、この好条件を利用することによって、大量のレンガを使った新しい教会の建設への話が繫がっていったのである。

 レンガ作成には窯を必要とするが、今度の教会の建設にあたっては、それ用の多くの窯が造られ、現場はそれによって、いままでにはないような、活発な動きを見せるようになっていった。粘土層がある所からレンガが作成される場所までの距離は、およそ、一キロほどあったが、その間をピストン輸送の形で、トラックと馬車が使われた。