「モロ氏、政界を諦めて米国行きか」。そうした見出しの記事が最近、コラム子の目を惹きつけた。その記事によると、2022年の大統領選で、ボルソナロ大統領の対抗馬にもなりうると期待されているセルジオ・モロ前法相が、家族の願いもあり、政治から離れた世界に身を置くよう求められ、米国に移住して生活するかもしれない、ということだ。「良いアイデアではないだろうか」。コラム子は読んでそう思うだけだった。
以前からこの「記者コラム」を読んでいる人なら分かるかもしれないが、コラム子はモロ氏に政治家としての期待はしていない。元々がラヴァ・ジャット作戦の担当判事として多くの政治家に厳しい裁きをした時に、たまたまその時の国民の本音に応えただけのこと。それは「政治家への警告」ではあるかもしれないが、「政治の実践」とイコールではない。「政治は心が清い人だけがやってほしい」というのは精神論に過ぎず、「いざ、どういう政局運営をするか」までは考えられていない。
そうしたことに国民も気がつき始めたからなのか、最近、モロ氏の評価や支持は以前の勢いは完全になくなっていた。もともと、左派からは「ルーラ元大統領を有罪にした」ことから敵視されていたが、4月に起こった法相辞任劇を契機として、ボルソナロ支持者たちからも激しく嫌われてしまった。ルーラ、ボルソナロ、両者の支持者から嫌われてしまったことで、支持基盤をかなり狭くしていた。
それでも、モロ氏自身がルーラ氏やボルソナロ氏を上回る人気を獲得していれば問題はなかったのだが、そういうわけでもない。それは、これまでのモロ氏のイメージそのものも大きく崩れてしまったからだ。
一つは、昨年浮上した「ヴァザ・ジャット報道」。携帯電話の盗聴記録から、捜査対象とする政治家の偏りや、連邦検察局捜査主任のデルタン・ダラグノル氏との癒着状態の発覚。これで政界や司法界での信用を一気に失ってしまった。
そしてもう一つが、自身が法相辞任する理由となった、「ボルソナロ氏の連邦警察介入疑惑」。この立証がうまくなかったことで、これまで一部で言われていた「裁きの詰めの甘さ」が公にもわかる形で知られてしまった。
22年の大統領選に関しても、現実的に考えて、出馬擁立に動く政党が見えにくい。古くから関係のある民主社会党にはジョアン・ドリア氏がいるし、民主党ならマンデッタ元保健相がいる。せいぜいポデモス、ノーヴォと言った新興右派政党頼みだが、政党規模が小さく大きな連立は見込めない。
こうした、大統領選での不利な展開に加え、法相辞任の際のボルソナロ支持者からの度を超えたネット中傷による、ロザンジェラ夫人をはじめとした家族の精神的疲弊が大きくなっている。
それが「国外に逃げたいレベル」なら、無理をせずに静養もかねて国外生活するのも悪くはない。まだ40代と若く、一旦充電して、次の人生設計を考えるのも悪くないだろう。もともとが米国の司法界や警察から支持が厚かったモロ氏のこと。そこから次の何かが始まるかもしれない。(陽)