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《記者コラム》墓穴を掘ったボリビア保守派

当選したルイス・アルセ氏(Twitter)

当選したルイス・アルセ氏(Twitter)

 18日にボリビアで行われた大統領選はルイス・アルセ氏の圧勝であっさりと終わった。


 昨年は、選挙結果に激昂し暴力沙汰を起こし、大統領だったエヴォ・モラレス氏が亡命を余儀なくされるほどに荒れた選挙だった。その1年後、結局は、2006年からの長年の政権与党だったエヴォ氏の社会主義運動党(MAS)に政権が戻ることになってしまった。


 昨年から続くこの選挙で皮肉にも証明されてしまったのは、「果たしてどちらの陣営がより賢明だったか」ということだ。この選挙で右派・保守側の付け入る隙ならあった。


 相手は、チャヴェス政権以来、ベネズエラの独裁政権にベッタリのイメージ。エヴォ氏は自身の人気を利用して法律改正で任期を伸ばし続け、「4選は認めない」との国民投票の結果が出たにもかかわらず、エヴォ氏は強引に出馬。そして投票結果では不自然な集計中断があり、微妙な判定でエヴォ氏の一次投票での当選。


 ここまでの成り行きは、野党側の不満の主張の方がどう見ても有利だ。彼らが冷静に国際世論に訴えれば逆転して政権を持つことも可能だったであろう。


 だが、ここからがひどかった。反エヴォ派の人たちは、エヴォ氏の肉親や繋がりの深い政治家の家に火をつけたり、女性市長の髪を切って赤いペンキをかけて晒し者にしたり、選挙高裁の責任者を監禁したり、放送局に立てこもったり。エヴォ氏が亡命に至ったのも、自宅に侵入者が現れたためだ。


 こうした直接の関係者に止まらず、彼らはエヴォ氏の支持母体となった先住民に暴力行為を働いた。そうした行為を行った警察官の中には、ボリビアの警察の紋章に刻まれた「第二の国旗」とも呼ばれるインディオの旗を剥ぎ取った。


 これは「南米版アパルトヘイト」とも呼ばれた先住民差別があったこの国では、人種差別的行為と目されても仕方がないものだ。
 そして、暴動を起こした人の間で「極右のヒーロー」と目されたフェルナンド・カマチョ氏が聖書の前でひざまづいて儀式を行う姿も国際的に報じられた。そこには「長期独裁政権に虐げられてきた人たち」のイメージなど微塵も感じられなかった。


 それこそ、このままカマチョ氏を大統領にして新政権でも樹立していれば、「クーデターによる極右政権誕生」として国際的にも恐れられていただろう。


 だが、さすがにそのシナリオはまずいと思ったか、ボリビアは保守派のヘネアネ・アニェス氏を大統領代行にして1年後に選挙を行うことで収まり、ボリビア国民が決めることとなった。


 その結果が出たのが今回の選挙だった。蓋を開ければ、代行のアニェス氏は満足な支持を得られずに途中で脱落。カマチョ氏は伯国におけるボルソナロ氏のようにはなれずに10%前後の支持に終わった。


 昨年の選挙でエヴォ氏と争ったカルロス・メサ氏は伸び悩み、40%近くまで落ち込んでいたMASへの支持が50%以上に持ち直す形でエヴォ氏の後任のアルセ氏が圧勝した。 去年の激戦と動乱が嘘のような静かな幕切れだった。


 そしてこの結果は、昨年のアルゼンチンでの選挙に続いて、「ボルソナリズム」が南米の近隣諸国で浸透しなかったことも意味する。(陽)