9日夜、国家衛生監督庁(Anvisa)が中国製の新型コロナワクチン「コロナバック」の治験中断を命じた事で、10日のブラジルはそのニュースでもちきりとなった。
新ワクチンの開発時、特に最終段階の治験で重篤な事態が発生して中断される事はままある。だが、今回の中断は当局が当事者からの説明を聞く期間が過ぎる前、しかも当事者への通達もなく行われ、物議を醸した。
当事者のブタンタン研究所は10日朝、会見を開き、治験を継続するために事例を報告したと説明した。だが、「重篤な事態」が治験者の死だと明言することを避けようとし、「重篤な事態に襲われた治験者には家族もいるから」個人情報は明かせないとの姿勢を貫いたため、この時点では「なぜ死んだのか」が一般人には分からなかった。
他方、Anvisa側は10日午後の会見で、6日に送付されたブタンタン研究所からの報告書は9日に受け取ったが、説明が不十分だから中断を決めたと釈明。政府からの横やりがあったのかとの質問には、「独立機関だから政治的な圧力は無縁」と答えた。
だが、その会見中、巷では、取材者が専門家に「自殺の場合も治験中断の必要はあるのか?」と尋ねる場面が流れ、「重篤な事態」の背景を暴き出そうとする報道が続いた。
10日午後には「死亡は死亡でも、コロナとは直接関係のない自殺」との警察筋の情報が報道されるようになり、ようやく一般人にも事態の全容が分かるようになってきた。
加えて、ボルソナロ大統領がソーシャルネットワークに「また勝った」と記載したからたまらない。これを知り、ブタンタン研究所所長は「死を喜ぶなどもってのほか」と糾弾。国民の自殺を喜ぶかに聞こえる大統領の言葉に首を傾げざるを得なかった。
コロナの死者が16万人を超える中での治験者死亡は懸念事項かもしれない。だが、説明期日前に治験中断を決め、死者や遺族の尊厳や心情を傷つける事は、より深刻な問題ではないのか。
治験再開は11日に認められたが、共に医療に携わるはずのブタンタン研究所とAnvisaの態度の差に加え、大統領の言動に呆れたのは、コラム子だけではあるまい。(み)
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