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特別寄稿=29日は市長の決戦投票日=成るか左翼の政権奪還=サンパウロ市在住  駒形秀雄

 今週末29日(日曜日)には、サンパウロ市を含む全国の市長を決める決戦(第二次)投票が行われます。
 「何だ、たかが地方の市長選挙か」と侮ってはいけません。
 サンパウロ市の場合、800万人の有権者が参加する大選挙なのです。
 選挙前の予想を覆して現在、決選投票に残ったのは、A) 市長現職のブルノ コーバス氏と、B) 社会派で、現状改変を唱えるG・ボウロス氏です。
 お二人とも40歳近くの働き盛り。それぞれにA)市やサンパウロ都市圏を運営する代表戦士、B)今までの保守系の市政を批判し、改善を目指す社会派のホープです。
 二人とも立派な紳士ですが、今まで名の知られた先輩政治家の蔭にかくれて人気度調査でもトップでは無かったのに、11月15日の実際の選挙で市政掌握の現実味のある決戦に浮かび上がって来たのです。
 市長選挙と同時に行われた市議会議員選挙での日系候補者の成績とあわせて、この辺の事情を調べてみましょう。

候補の二人はどんな人(?)

 決選投票に残った二人は、選挙前の最初の頃の人気度調査ではトップには入って無かったので、よく知らない人も居るかと思います。どんな人かまず簡単にご紹介しましょう。

ギリェルメ・ボウロス氏(Romerito Pontes, CC BY 2.0 , via Wikimedia Commons)

 (1)ボウロス(Guilherme Boulos) 。サンパウロ市生まれ、38歳。父も母も著名な医師で、自身もサンパウロ大学卒。学生時代から社会運動に参加し、大学教師。
 Sem Teto(家よこせ)運動で知名となる。PSOL(自由社会党)幹部。2018年大統領選に出馬し、62万票を獲得している。主張としては 1)「旧い政治体制を打破せよ」 2)「もっと貧しい人たちを支援しろ」を打ち出し、中間層の共感も得て居る。極端な左翼ではなく、日本の例で言えば、昔の社会党のような感じでしょう。

ブルノ・コーバス氏(Governo do Estado de São Paulo, CC BY 2.0 , via Wikimedia Commons)

 (2)コーバス(Bruno Covas Lopes) 。著名な政治家マリオ・コーバス元サンパウロ州知事の孫としてサントス市に生まれる。40歳。サンパウロ大学法科卒で経済学も履修。州議員、下院議員を経て2018年ドリア=市長が知事に当選したことでサンパウロ副市長から市長に繰り上げ就任し、現在に至る。
 市長在職中ガンに罹患していることが分かったが、職務執行に問題なしとして治療しながら市長業務継続中である。生まれながらの上流育ちなので、下積みの苦労を知らぬのではと言われている。
 政治的には祖父マリオ・コーバスからのPSDB党を引き継ぎ、保守主流派と目されている。
 二人のバック主体である党派の勢力を見るとーコーバス氏のPSDBはドリア現サンパウロ州知事、アルキミン前州知事、FHカルドーゾ元大統領など多士済々で、企業などの支援もある。
 ボウロス氏のPSOLはそれに較べ党も新しく、議員の数も少ない。そのためPSDBに比べ、選挙資金も少なく、マスコミ(TV)の無料宣伝時間も秒単位と少ない不利な条件だった。
 そういう環境に拘わらず今回のサンパウロ市会選挙では票を伸ばし、2から6へと議席も増やしている。

日系候補の成績は

 ここで一寸市議会議員に立候補した日系議員の成績をチェックしてみましょう。結果は[表3]の通り。当選したのはR・ゴラール(PSP)、 G・羽藤(MDB)、A・野村の3氏のみ。大田、神谷の旧職は選ばれませんでした。
 今回は議席の割に日系の候補者が多く、コロナ禍で今まで名の売れた現職には有利、新人には不利にはたらいたと思われます。
 それにしても同じ沖縄系を地盤に持つ大田、神谷両氏などは事前に調整していれば、もう一つ二つの議席を増やせたのでないか。各自の得た9千票、勿体ない気もしますね。新人のN・さちよさんなどは今後に期待ですが、2年後の選挙では日系新人の登場をみたいものですね。

全員参加の左翼―社会派

 今回15日の一次選挙の結果は、国内の左翼系勢力を勢い付かせています。ボウロス氏は若く知名度も低くて、選挙前の下馬評では当選圏外に居たのですが、その後シンパを増やし、実際の選挙結果では堂々2位に入り現職のコーバス氏と決戦するに至ったのです。
 その上、先週17日の世論調査では更に支持率を伸ばして35%、コーバス氏の48%により近ついています。「これはチャンスありだ」と左翼系と見られる大物が続々とTVにも出て、ボウロス支持を表明しました。
 即ち、シーロ・ゴメス、マリーナ・シルバ(元大統領候補)、ジルマ元大統領、ルーラ元大統領、他左翼系党首が支持表明です。
 ここで、政治については一家言ある御隠居、古川さんの言葉を聞きましょう。
 「このような全国区の大物の応援が、サンパウロ市のような限定された地区でどれだけ効果を発揮するか? 疑問の点はある。しかし、よくもまた、昔の左翼の闘士、懐かしい顔、写真が出てきたもんだね。昔の老組ボスも本人には違いはないが、やはり年を取ってる、白髪も増えてる。
 でも『昔の名前で出て居ます』よろしく、良く出て来てくれました。皆さんの参加があるだけで、世の中活気付きますよ。
 その中にあって、ボウロスは社会派の新しい波(New Wave)だ。これからは、この様な若い新しい人達に頑張って貰いたいもんですね」
 しかし、これを迎え撃つコーバス陣営も強力です。第一にサンパウロ市の行政組織、更に、ドリア・サンパウロ州知事等が保守派の生命線と陣営を固めていますし、大きな変化を好まない企業家団体も現職支持です。
 更に相当程度の文化、経済水準を維持している中産市民階層も経験の浅い労働者階級に行政を握られ、社会が荒れることを好みません。
 ここで、高齢者の部類に入る杉山さんの意見も聞いてみましょう。
 「教養もない人たちが行政にタッチするとロクなことはない。市政が荒れてくる。前の労働組合主導の市政時代だって、結局自分が儲かるかどうかが優先され、汚職がはびこったではないか。
 社会の不平等に文句をつけた人たちも、一旦役職を手に入れると結局自分の利害優先で動いた。選挙前の怪しげな言葉にまどわかされてはダメだぞ」議論は中々終わりません。
 さー、ボウロスに加担する左翼、労働者階層のリターンマッチが成って世間をあっと言わせるか? はたまたコーバスに代表される保守、安定派が守り勝つか? 興味と関心は尽きません。
 そしてそれはサンパウロ市民だけでなく、ブラジル中の国民が息をひそめて見守っているところです。-(この文章に就いてのご意見などはこちらへ=>hhkomagata@gmail.com