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中島宏著『クリスト・レイ』第85話

 クリスト・レイ教会を自分たちの手で完成させたというバイタリティも結局、そのように強靭な精神力から生まれてきたものなのであろう。その辺りは確かに、一般の日本人移民とは違っているのではないか。マルコスは漠然とながら、そのように考えている。
 改めてクリスト・レイ教会を眺めてみて、彼はその意を強くした。
 ほぼ、二十メートルに達する尖塔を抱するこの聖堂は、すべて赤レンガで積み上げられ、全体に醸し出される雰囲気は、強固で簡単には崩れないという意志がそこに秘められているようでもある。
その背景にあるものが、一部は林に囲まれ、他は畑という田園風景であるせいか、この聖堂はいかにもその雰囲気の中で、ずっと昔からあったような存在感を示している。
 どっしりと落ち着いたその佇まいは、こういう開拓前線の風景の中に、絶妙といっていいほどの感じで溶け込んでいる。そこには、あの街の中にある、常識的な形としての教会にはない、土臭い、それでいて神秘さを感じさせる、独特なものがあった。
 教会の建物はバシリカ式を継承した長方形のもので、聖堂の中央部分である身廊の両側には、列柱で隔てられた側廊があり、身廊の天井は一段と高く、側壁には縦に二つ並ぶ長方形の高窓が等間隔に四つ並んでいる。
 そして、側廊の上方にはモザイクが施された円形の窓がやはり四つ、高窓に合わせた位置で並んでいる。外観の赤レンガと違って、教会の内部はベージュ色のトーンで統一され、それが全体に柔らかな雰囲気を醸し出している。
 正面、祭壇の部分は大きな半円形の壁によって上部が仕切られ、その奥に、イエス キリストの像が祀られている。それは、中天に漂うような位置に置かれてあり、背後には十字架はなく、キリストの像は聖衣をまとって両手を広げ、穏やかな表情を湛えている。
 その空間は誠にシンプルで、そこには古色蒼然とした装飾物は一切置かれておらず、やや、荒削りで堅さを感じさせる外観とは対照的に、柔らかなやさしさで包まれているという空気が、そこには漂っている。彩色された窓から入ってくる光が、明るい色彩で統一された聖堂の中を幻想的に照らし出し、その佇まいは素朴ながらも、いかにも希望に満ちたような世界を、その空間に描き出している。
 そういう点でも、このクリスト・レイ教会の聖堂は、他のものと比べてかなりユニークなものであった。長方形の高窓や円形の窓が広く、大きく造られている為に、構造的に採光に優れ、聖堂内を明るくしているのも先に述べた通りである。それと、祭壇の手前から左右に伸びる交差廊の先には、それぞれ聖書の場面をあしらったステンドグラスの円形窓があり、それがまた、この教会に独特の色を添えるものにもなっている。

 マルコスは、この教会を眺めながら、アヤの言っている、いわゆる隠れキリシタンの人々の持つ、キリスト教に対するユニークな思想が、ある程度感じ取れるような気分になった。ここにあるものは確かに、このブラジルにあるカトリック教会の流れとは明らかに違うものである。
 無論、キリスト教ということでは、いささかの違いもないのだが、その表現の仕方、理解の仕方、信じ方に、それなりの差異があることは認めざるを得ない。彼の場合、それほどキリスト教について、あるいはカトリックについて深く勉強したこともないし、そこを深く考えてみるということもなかったが、今、この教会の内部を見ていくにつれて、彼らの思考の内部も少し覗けたという気持ちになっていた。