サンパウロ市在住の女性移住者から、次のような体験談が送られてきた。その外国人移民の友人は高額なアイフォン(アップル社製スマホ)を強盗に盗られ、なんと取り返した。生々しい顛末は、以下の通り。(編集部)
「友人Hがフェイスブックのビデオで絶叫していた。一体、彼の身に何が起こったのか?」。10月26日(月)早朝、友人Nから一本のメッセージが送られてきた。
共通の友人の身に起こったその事件は、10月24日(土)午後10時頃、セー地区にほど近いリベルダーデ区グリセーリオ街225番付近で発生した。同地は強盗多発地帯としてサンパウロ市民の誰もが知る治安の悪さで有名な地区だ。
その場所で強盗に遭っただけなら、特に驚くことはない。今回は事件から2日後、なんと希望のある結末を迎えられた。
Nの知らせを受けて被害者Hのフェイスブックを確認すると、事件に巻き込まれた様子が記されていた。
グリセーリオ街近くに暮らすHの友人が、別居している妻と子どもたちに食料を与えず、妻子で飢えているので助けてほしいと別の人から言われ、Hは危険を承知でそんな遅い時間に渋々向かった。
だが待ち合わせ場所に友人は現れず、しばらく待っても連絡がなく、食料だけをアパートの階下に置いて帰路の途についた。
その直後、信号で停車した瞬間に盗賊に襲われた。ナイフで助手席の窓を割られ、貴重品の入ったカバンを奪われた。ガラスの破片が腕に突き刺さり、目にも入ったため、もはや抵抗の余地はなかった。
盗賊たちは即座にその場を立ち去った。Hがフェイスブックで絶叫したのはその直後だった。近くにいた警察は見て見ぬふり。カバンには8千レアルで購入して日の浅いアイフォンやカード類が入っていた。
幸い、もう1個のアイフォンは残り、すぐに盗まれたアイフォンのGPS位置情報を確認すると、近くの建物にあることが分かった。警察と一緒にその建物に行ったが、「令状がなければ警察でも侵入はできない」と言われ泣き寝入りとなった。
事件を知り、Hに連絡すると心身ともに疲弊しており、カード手続きなどを一緒に手伝うことになった。そうしている内に月曜午後4時頃、犯人の仲間から一通のメッセージが届いた。「2千レアルを午後8時に持って来ればアイフォンを返す」という話だった。GPSでは前日からレプブリカ地区にあることが分かっていた。
さらなる犯罪に巻き込まれるリスクを避けるより、Hは既に勝ち誇ったようにお金でアイフォンを取り戻しに行くことを選んだ。彼は強盗による身の危険の怖さは特に感じていなかったが、仕事やプライベートのデータを失うことに参っていた。
そうして事件発生から2日後、一人で2千レアルを持って指定場所に赴き、無事にアイフォンは返された。警察には協力を仰がなかった。
29日(木)午後7時半頃にも同じ場所で同様の手口で被害に遭った女性が出て、彼女は知人Hのもとに相談に訪れた。アイフォンはグリセーリオ街からすでにレプブリカ地区に移動しており、同じルートでビジネスが行われているようだった。
彼女は取り戻しを断念した。アフリカンマフィアが暗躍している説も有力で、強奪による「アイフォン・ビジネス」はコロナ危機と相まって活況を呈している模様だ。
盗まれた携帯電話に泣き寝入りするか取り戻しに行くかは「神様の思し召し次第」。クリスマスも近づいてきたので警戒心を高めて過ごすしかないのがサンパウロの現実だ。(※著者以外の登場人物は日本人ではない)。