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《記者コラム》メッキが剥げた?「救世主」モロ

モロ氏(Antonio Cruz)

モロ氏(Antonio Cruz)

 「これで22年の大統領選はかなり微妙だな」。最近、そんな風に確信した。セルジオ・モロ氏のことだ。
 モロ氏といえば、伯国最大の汚職捜査「ラヴァ・ジャット作戦」の担当判事として、一時期まではボルソナロ大統領を上回る勢いで国民の人気と尊敬を集めていた。「22年の大統領選に出馬すればボルソナロ氏に勝てる」「ボルソナロ氏がモロ氏を副候補に据えれば再選間違いなし」とまで言われていた。
 ただ、今年の4月、連邦警察の人事をめぐってボルソナロ大統領と対立して法相を止めたまでは良かったものの、その後の「大統領は連警トップの人事に介入した」との立証が、国民全体が見守る中、あまりうまくなかったことでケチがつき、ボルソナロ支持派の反撃を与える隙を作ってしまい、一気に勢いを失ってしまった。
 ただ、当コラムで一貫してモロ氏への過大評価へ厳しいことを書き続けてきたコラム子にとっては、「メッキが剥げたことに、とうとう多くの人が気づいたか」と思っただけだった。
 「裁きの中立性への疑問」に関してはルーラ元大統領の裁判の時点ですでに指摘されていたこと。さらに、18年大統領選の一次投票の直前にボルソナロ氏の対抗候補フェルナンド・ハダジ氏に圧倒的に不利になる、ルーラ政権元財相アントニオ・パロッシ氏の不確かな褒賞付証言の公表承認。
 そして、選挙後にボルソナロ政権の法相就任。そして、19年6月の「ヴァザ・ジャット報道」では、パラナ州連邦検察や捜査陣と癒着し、有罪ありきの裁判に導いていたかのようなやり取りが暴露された。この辺りで「政治的偏り」も「低いモラル感」もすでに疑問視する人も少なくなかった。
 そこに今回の、「イスラエルの富豪」の弁護担当に、ラヴァ・ジャット企業を顧客に持つ米国の法律事務所の理事就任だ。モロ氏は自ら墓穴を掘ったとしかコラム子には思えない。
 モロ氏が弁護したベニー・スタインメッツ氏というのは、鉱山発掘関係の国際的犯罪で、日本語でさえも報道が出るほどの大物犯罪者。罪状、疑惑も贈収賄、資金洗浄、脱税、環境法違反、人権蹂躙と盛り沢山。そんな人物を「伯国の救世主」とまで言われた人物が弁護するのだ。いくら「弁護士」としての仕事とはいえ、のみ込める人はそう多いとは思えない。
 加えて、加入した弁護士事務所がオデブレヒトやOASといった、自分が大量に関係者をさばき、さらに褒賞付証言(司法取引証言)まで導かせた企業をクライアントに持つのも気になる点だ。
 ただでさえ、これらの企業の褒賞付証言が正しいものだったのかに疑いが持たれているのに、弁護する側に回るのでは「結局はグル?」などと勘ぐられてもおかしくはない。
 これはブラジル弁護士会をはじめ、多くの専門家やコメンテーターが違和感をもってとらえ、「担当判事の立場だから知り得たラヴァ・ジャット作戦の内部情報を使って、今まで自分が裁いてきた企業を弁護する可能性があるのは倫理的にいかがなものか」と疑問を呈する声は多い。
 これまでモロ氏をたたえてきたエスタード紙のような中道〜保守の新聞までこれを報じ始めている。ここ最近、「ボルソナロ大統領批判の急先鋒」とみなされているグローボ局は、モロ氏の英雄化に最も貢献したと言われるだけあって、彼の問題になると途端に歯切れが悪くなる。だが、ここがモロ批判に転じるようだと、副候補であれ正であれ、大統領選における彼の立場は絶望的だろう。(陽)