殺人事件発生でコミュニティ震撼
10月16日(金)の夜、サンパウロ市のバングラディッシュ・コミュニティーを震撼させる事件が発生した。
「『99』(自動車配車のアプリ)で運転手をしていたバングラディッシュ人が殺されたんです」と、翌日に取材する約束をしていたサンパウロ市ブラス地区でホテルを経営するバングラディッシュ人モハメド・カモンさん(40歳)は、電話越しでもその声色から衝撃の大きさが伝わった。仲間の死にショックを受け、友人知人が喪に服す週末となり、取材も控えさせてほしいという事になった。
翌17日付のG1サイトの記事によると、事件は金曜日の夜、ピリトゥーバ地区で発生した。運転手はブラジルに暮らして5年になるムタキン・アフマドさん(24歳)で、袋小路の路上で女性の乗客を降ろした後、突然7人組に襲われ、銃で撃たれて死亡した。セキュリティカメラで現場の様子が撮影されていたが、物品が奪われた形跡はなく、警察は単なる強盗事件ではない可能性も示唆した。既に犯人2人は特定されているという。
ムタキンさんは、仕事をしてお金を稼ぐために来伯して、バングラディッシュ人が多く暮らすブラス地区に居住し、昼間は友人と衣料品店で働き、夜は『99』アプリの運転手として働いていた。
サンパウロ都市圏鉄道(CPTM)のブラス駅を出ると、平日と土曜日の正午過ぎまで、駅前の広場から衣料品店が軒を連ねるブラス地区の一帯では、アフリカ人などの移民が足の踏み場を探すのが大変なほど、路上に衣料品や雑貨を並べて販売している。
10分ほどその様な通りを歩いて抜けると、衣料品店だけでなく、ハラールの食肉店やレバノン人のレストランや美容室、トルコ人の経営するシュワルマ(アラブのピタパンサンドイッチ)の人気店なども目につくようになる。そんな一角に、取材を予定していたモハメドさんのホテルやアミンさんが手伝うレストラン『タージ・マハル』も存在する。
モハメドさんは「バングラディッシュで生活に困ることはありませんでしたが、8年ほど前にブラジルに来て気に入り、家族も呼んで暮らしてきました。でも、近くいとこがブラジルに来て仕事を交代し、我が家は祖国に帰るつもりです。日本にも同胞の友人がおり、パンデミックが過ぎたら日本にも行くつもりです」と余裕の笑みを見せた。
アミンさんによると、バングラディッシュ人は聖市で300人ほどが暮らしていると推定され、ピラシカーバ、オルトランジア、カンピーナス、アメリカーナなどでも主に衣料品店を開いており、月に1、2回はブラス地区に買い出しに訪れるという。日帰りでは大変なのでブラス地区に宿泊し、モハメドさんのホテルも重宝されている。
「サンパウロでバングラディッシュ人の公式なコミュニティーはありません。皆がコミュニティーの代表のような感じです」と話すアミンさん。ブラス地区はメスキータがあり、ムスリムも集住しているので、出身国は違ってもムスリムにとっては過ごしやく情報交換もしやすいイスラム共同コミュニティーの様相を呈している。
それでも、モハメドさんのホテルには常時バングラディシュ人が出入りし、アミンさんが働いている縫製工場『バングラブラス』も、2人の同胞が共同経営し、同胞のベテランテーラーが仕事の監督をする。目に見えて組織化されていなくてもバングラディッシュ人同士で助け合うネットワークが築かれている。
さらに、国外在住の同胞を結ぶニュース配信会社NRBnews(nrbnews24.com)もSNSを通して活発に活動しており、オンライン会議で議論したり祖国のニュースを共有したりするなど、世界どこにいても同胞が孤立しないインフラができている。(おわり)