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コロニア10大ニュース=全停止した日系社会の活動=コロナに振り回された異例の年

 2月25日にブラジルで最初の新型コロナ患者が確認され、3月17日に最初の死亡が確認され、ブラジル社会の緊迫度が一気に上がった。同21日にジョアン・ドリアサンパウロ州知事が緊急記者会見を開いて非常事態宣言をし、24日から「2週間のクアレンテナ」(外出自粛)を行うと発表した。4~5月の全てのイベントが中止・延期され、未曾有のパンデミックが始まった。ウイルスに振り回された日系社会の1年を振り返る。

第1位=日系団体イベント中止=各団体で工夫して開催

 新型コロナウイルスによる自粛により、日系団体は例年のようなイベント開催が中止や延期に追い込まれた。
 例えば、4月の花祭りは中止、7月の七夕まつりはオンラインに、12月の東洋祭りや餅つきなど「年末のサンパウロ市の風物詩」と言われる代表的なイベントも中止になった。
 ブラジル学校が閉鎖されたのに伴い、日本語学校も一次は全面的に活動を停止。5月ぐらいから徐々にオンライン授業を取り入れたり、独自の工夫をして教育を継続するところが増えた。
 通常なら毎週のように全伯各地で「日本祭り」タイプのイベントが開催されるが、今年はほぼ中止された。日系社会が一時的に全停止状態に陥った異例の年だった。

 

第2位=異例に多い著名人の訃報=中にはコロナで亡くなる人も


 コロナに関係あるなしに関わらず、パンデミック中には異例に多くの日系社会著名人が亡くなった。▼弓場農場の「クリスマスの集い」の演劇脚本・演出を手掛けた矢崎正勝さん▼サンパウロ人文研元顧問の鈴木正威さん▼コロニア文芸界を支えた安良田済さん▼福博村会会長などを歴任した大浦文雄さん▼サンパウロ州立交響楽団合唱団指揮者の宗像直美さん▼「移民の父」上塚周平を知る最期の生き証人、安永忠邦さん▼ブラジル柔道代表団元監督=篠原正夫さん▼マリンガーのカメラ業界草分けの植田憲司さん▼ブラジルゲートボール連合元会長・本藤利(ほんどう・とおる)さん▼ブラジルヤンマー株式会社社長、ブラジル日本商工会議所第8代会頭などを歴任した後藤隆さん▼オイスカ・ブラジル総局のゼネラルマネージャー、高木大和オズワルドさん▼サンパウロ日伯援護協会の元事務局長、山下忠男さん▼元サンパウロ新聞デスク 笹井宏次朗さんが死去▼イタケーラ日系クラブ会長、茨城県人会会長、こどものその副理事長などを歴任した鈴木康夫さん▼ブラジル愛知県人会の元会長、元愛知県費留学生の豊田(とよだ)ルミさん▼リオ州日伯文化体育連盟理事長、ブラジル農業拓殖協同組合中央会(農拓協)会長などを歴任した原林平(はら・りんぺい)さん▼ブラジル日本アマチュア歌謡連盟の名誉会長を務めていた北川朗久さん▼マリンガ文化体育協会の会長やマリンガ市議、マリンガ地区日本語学校連合会会長も務めた安永修道さん▼サンパウロ日伯援護協会の元評議員会会長の加藤英世氏▼元本紙営業部長、南米浄土真宗本願寺(西本願寺)の僧侶だった中野晃治(こうじ)さん▼オザスコ日伯文化体育協会顧問の小東光男さん(こひがしみつお)▼日系旅行社協会元会長、農業技術移住者協会役員などを務めた佐藤八朗さん▼パラグアイ国イグアス移住地にある拓恩寺の島崎充也住職▼高知県人会副会長の文野雅甫さん▼コロニア俳壇の長老=栢野桂山さん▼ブラジル日系ゴルフ連盟理事長の近沢宗貴(むねき)さん▼ブラジルで和道流(わどうりゅう)空手道を普及・指導してきた高松浩二(たかまつ・こうじ)さん▼元サンパウロ新聞社会部次長(デスク)の田中敬吾さん

 

第3位=オンラインイベント盛んに=苦心してコロナ禍に対応

オンライン日本祭り主催の皆さん

オンライン日本祭り主催の皆さん

 パンデミックへの対応として「オンラインイベント」開催が日系社会でも盛んになった。ユーチューブやフェイスブックなどのSNSを駆使し、イベントのライブ中継や、文化発信が続々行われた。
 オンライン化されたのは、ブラジル日本都道府県人会連合会(市川利雄会長)主催の日本祭りや、東京で開催予定だった海外日系人大会、2日で1万5千人来場する沖縄祭りやブラジル日本商工会議所(村田俊典会頭)が毎月主催している昼食会などあげればきりがない。
 「憩の園」「こどものその」「希望の家」「ACAL」などを中心に、感染対策に遵守して持ち帰りやデリバリーの弁当販売イベントも毎週のように行われ、例年のイベントを自宅で楽しむ1年となった。
 ブラジル日本文化福祉協会(文協、石川レナト)は文化まつりを皮切りに、6月の日本移民の日の先没者法要式など、ほぼ毎週オンラインイベントを活発に開催した。
 県人会などもドライブスルー方式の祭り開催や、宅配料理販売を活発に行った。また、ブラジル日本商工会議所もオンライン会議アプリを使ったウェビナーやシンポジウムを続々と開催した。
 苦心ながら、それぞれがコロナ禍に対応した形で活動を継続している。

 

第4位=JICAボランティア=異例の隊員一斉引き上げ


 独立行政法人国際協力機構(JICA)は3月17日に、世界に派遣されている青年海外協力隊員やシニア海外協力隊員の一斉帰国を決定した。日系社会にボランティアが派遣されるようになってから初めての異例の対応となった。
 世界各国の派遣先には医療体制が整っていない国や、感染の疑いがあるとして隊員が現地で隔離されると把握が困難であること、世界各国でいつ国境が閉鎖されるかわからない状態を踏まえ一斉引き上げする事が決まった。
 ブラジル国内では4月8日で95人全員の一時帰国が完了した。帰国後は全員が2週間の自主隔離を実施した。
 帰国オペレーションは、3月20日に第1陣がブラジルを出発し、23日には風邪気味の症状が見られた2人のボランティア隊員を除く93人がブラジルから出国したという。体調を崩していた2人は回復を待ってから、それぞれ29日と4月8日に帰国した。


第5位=日系初の東大卒業生誕生=嘉悦レオナルド裕悟さん

10月15日に来社した嘉悦さん

10月15日に来社した嘉悦さん

 今年3月に東京大学法学部2類を卒業した嘉悦レオナルド裕悟(かえつ・ゆうご、22、四世)さんが10月から二宮正人法律事務所で研修のため滞伯した。
 嘉悦さんは安永ルイス(留意治)さんの孫にあたる日系四世。母の教育意向で家庭ではポルトガル語を使い、ブラジルにも今まで10回程訪れるなど幼少から国際感覚を培ってきた。
 日系アイデンティに加え、大学在学時に活動していた「通訳案内士」の経験を活かし「国際的に活躍したい」と渉外弁護士を志望している。すでに司法予備試験を通過し、東京の「四大法律事務所」の一つから内定も受け、あとは本試験の結果を待つのみだ。

 

第6位=アギア・デ・オウロ初優勝!=原爆ドームの山車で賛否両論

原爆ドームを模した山車

原爆ドームを模した山車

 2月に開催されたサンパウロのカーニバルで「アギア・デ・オウロ」が初優勝した。14エスコーラ(チーム)が出場し優勝を争った。同チームは「知識の力」をテーマに、負の遺産・原爆を山車で再現し戦争の悲惨さを訴えた。
 このパレードにはブラジル広島文化センターやブラジル長崎県人会の会員らも加わった。被爆した広島原爆ドームと爆発の時のきのこ雲を山車で再現。炎が上がる映像を流し、すすだらけの顔をした人らが静かに立ち尽くす他、戦火に巻き込まれ苦しむ様子を見せ戦争の悲惨さを表現した。
 カーニバルで原爆を扱ったことに関して、日本のSNSでは賛否両論のコメントが多数入り乱れた。だが、長崎県の田上富久市長からは歴史的事件の啓蒙活動を行ってくれたことに対して感謝のメッセージが送られた。


第7位=「平野運平の孫」出現!=植民地に初訪問を果たす

 今年7月半ば、「平野運平の孫」だという榛葉(しんば)ジャナイーナさんが来社した。平野運平は初期の日本人集団地の一つ、平野植民地の創立者で「移民の父」とも呼ばれている。
 平野運平は、笠戸丸移民の通訳として渡伯、日本移民の将来を考え同植民地の建設を行った。その際、入植者がマラリアによって80人も亡くなったことで、高価だったマラリア特効薬キニーネを購入するため土地を担保に巨額な借金をしたまま病死したとみられる。
 残された子孫は、もし名乗り出れば借金を背負うことになるのではと考え、一世紀もの間黙り続けたという。
 ジャナイーナさんが訪日の為にビザ申請を行ったところ2回断られたことが、運平の孫を名乗り出るきっかけとなった。
 11月初め、姉の榛葉・ケイロス・レジャネさんと共に平野植民地に初めて訪れ、祖父・運平の墓にお参りした。直近では3度目のビザ申請を12月に行ったが再度断られた。

 

第8位=初めて法務省に直談判=サントス強制退去事件

面談時に三権広場で記念撮影(左から奥原さん、島袋前会長、宮城さん、上原会長)

面談時に三権広場で記念撮影(左から奥原さん、島袋前会長、宮城さん、上原会長)

 第2次大戦中にサントス一帯に住む日本人移民を中心とした枢軸国移民に、政府が強制退去を行った「サントス事件」。
 この事件に関する損害賠償のない謝罪要求を、奥原マリオ純氏が15年に法務省アネスチア委員会に訴えたが進展を見せなかった。そこでブラジル沖縄県人会(上原ミウトン会長)が18年に加わり、19年12月に再度、奥原氏、島袋氏、上原氏、宮城あきらブラジル沖縄県人移民塾代表とともに同委員会に訪問した。
 2人の担当弁護士に事情を説明し請願書を渡した。当初15分の予定だった面談は2時間に延長され、弁護士からはその文書を大臣にも見せるとの言葉も貰い手ごたえの感じた面談になった。
 そして2月には、同塾発行同人誌「群星(むりぶし)」第5巻の「合評会」が行われ、その会で同事件を扱ったドキュメンタリー番組『語られなかった強制退去事件』の鑑賞会も合わせて開催された。
 なお同誌第6巻の年内発刊予定していたが、コロナ災禍により困難になったため、21年発刊に変わった。


第9位=邦人女性旅行者を殺害=ゴイアス州の心霊治療施設で


 ゴイアス州アバジアニア市の心霊治療施設「カーザ・デ・ドン・イナシオ・デ・ロヨラ」敷地内で、日本人女性と思われる遺体が11月16日に発見された。翌日17日に日本人旅行者の赤松瞳さん(43)であることが判明したとブラジルと日本のメディアが報道した。
 施設内の監視カメラに、右肩に白い服をかけ自転車をこぐ姿が捉えられていた同市内に住むラファエル・リマ・コスタ被告(18)が容疑者として拘置所に収容された。
 検死の結果は鈍器による外傷で亡くなっていた事が判明。被告逮捕時の「首をしめて殺した」と言う供述と食い違うため、改めて尋問したところ「強盗前に強姦した」と自供した。捜査当局は強姦殺害と死体隠匿の容疑で起訴している。


第10位=本紙印刷版が一次中止に=4~5月はデジタル版のみ


 外出自粛開始に伴って、本紙印刷版も3月25日から中止され、デジタル版(サイト記事とPDF版)だけになった。本紙始まって以来初めて、6月に復旧するまでの2カ月あまり、デジタル版のみが配信された。
 その間、せめてインターネットをやっている購読者には読んでもらおうと考え、急きょ有料サイト記事とPDF版を無料開放し始めた。それに加えて、メールでPDF版を無料配布することも始めた。「緊急事態だからこそ、コロナに関する正確な情報を読者に提供する役割があるはずだ」との考えからだ。
 イベントが煙のように消え、全ての取材日程がキャンセルされ、現場取材が一切なくなった。5月末に突然、高木ラウル社長から電話があり、「6月から印刷版を復帰させよう」となった。
 印刷版再開に伴い、PDF版の無料配布を中止し、通常の有料読者むけのサービスに戻った。現在は印刷版読者に限定して、WhatsAppでPDF版を送付するサービルも開始している。