ここのところのブラジルでの政界の報道を聞いていると、「この国もビジウヨが極右を利用し始めているのだな」ということがうかがわれる。「ビジウヨ」とは、「ユーチューブやSNS等を使ってネット右翼を扇動してお金儲けにつなげる人たち」のことだ。
コラム子にそう思わせることが2つある。ひとつは「セントロンのボルソナロ大統領の接近」、そして「次の大統領選での民主党(DEM)とボルソナロ氏のシャッパ形成説」だ。
セントロンの場合、近づいて行ったのはボルソナロ氏の方だ。「議会多数派の彼らを利用すれば、自分は罷免を逃れられる」という考えなのだろう。だが最近は、むしろセントロンが頼られていることを逆手に取り始めている気がする。
それを強く感じたのは、アルトゥール・リラ下院議長、ロドリゴ・パシェコ上院議長とボルソナロ氏の会談だ。連邦議会で対立していたロドリゴ・マイア前下院議長がいなくなったことで、ボルソナロ氏は自身がかねてから推し進めたかった極右、もしくは福音派のイデオロギーによる銃や教育の方針を通したがっていた。
だが、両議長の答えはそっけなく「行政・税制改革とワクチン対策を優先する」というものだった。
連邦議会でのこうしたビジネス主体の割り切り方を見ていると、テメル大統領の民主運動(MDB)の頃を強く思い出す。新自由主義経済の経済モデルのもと、イデオロギーのことなどはとりあえず置いておいて経済主体に実務的な仕事をする。
これがセントロン的なやり方なのだろう。「とりあえず国民に一定の人気があって選挙で勝ちそうだから大統領を応援するけど、議会で実権を握っているのは我々」といったところなのだろうか。
同様のことはDEMにも感じる。党首のACMネット氏からは、以前はボルソナロ氏を警戒するような発言が目立っていたが、同党からの閣僚や上院がボルソナロ氏との疎通がうまくいったことで方向転換。
今や「22年の大統領選のボルソナロ氏の副候補はDEMから出るのでは」とまで言われはじめている。DEMはキム・カタギリ下議など、ブラジル自由運動(MBL)などの政治活動団体あがりの人も目立つ。
MBL支持者のような人にもマイア前下院議長やジョアン・ドリア聖州知事のような昔ながらの穏健保守よりは、ネット受けの良いボルソナロ氏のようなタイプの方がよいと踏んでいるのかもしれない。
いずれにせよ「ボルソナロ氏を利用してあとは自分たちが」の期待を抱いているように感じられる。
だが、セントロンやDEMにはアメリカで何が起こったか、今いちど思い起こしてほしい。
共和党のビジネス系の穏健派がドナルド・トランプ氏の人気を利用して米国民主党に対抗して選挙に勝った結果、どうなったか。4年後には党内の8割が反マイノリティ、反科学の「トランプ主義」に染まりきり、1月6日に連邦議事堂を襲った暴動でさえ道徳的な批判ができなくなってしまったことを。
ブラジルで同じ轍を踏まれなければ良いのだが。(陽)