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特別寄稿=会社事例研究=コロナ禍でも負けない会社作り=ブラジル最強の総合農業機器会社=72年創業以来、赤字決算なし=CCM do Brasil社=カンノエージェンシー代表 菅野英明

創業経営者の中桐廣文社長

 米国と並ぶ世界の農業大国ブラジルで、創業以来、草刈機をはじめ農業用トラクター販売も行う全伯規模の総合農業機器会社がCCM do Brasil社(本社・パラナ州クリチバ市、中桐廣文社長)だ。取扱商品だけで8万品目あり、ブラジル27州に1万社以上の販売代理店を構築し、2500社のアフターサービス網を築いている。この業界ではこれだけの販売ネットワークを築いている会社はブラジルでは聞いたことがない。もちろんブラジル日系人112年の歴史でも抜きん出た存在感のある会社になっている。しかも社員はわずか103名と少数精鋭主義を貫いている点も光る。昨年6月期には、コロナ禍の中で売上高、収益ともに創業以来最高の月次決算となり、内外取引関係者の度肝を抜いた。普段、沈着冷静で温厚な中桐の顔からも思わず笑みがこぼれたほどだった。

 2022年には創業50周年記念を迎えるが、ブラジルの会社の中でも同社が評価される要因として次の6点がある。
★8万点の取扱商品と全伯27州に築いた1万社超の販売ネットワーク
★各地域の商慣習、経済変化、為替変動、市場環境などを熟知し全天候型対応の経営態勢を築いたこと
★価値創造型企業であり強靭な経営体質を誇る
★先見性に裏打ちされた挑戦心が旺盛な経営マインド
★国内や世界中の取引先から評価される「儲けと信用」という経営信条
★顧客目線でお客様第一主義を貫いていること

コロナ禍での好決算と経営合理化策

本社1階の製品展示フロアにずらりと並ぶ独自開発したブランド品の数々

 コロナ禍で経済が混迷し失業者が加速度的に増加したブラジル経済。この環境下で2020年6月期の月次決算は、売上高で対前年同月比で倍増の200%超、もちろん収益も並行する好決算となった。「大豆やトウモロコシ、コーヒーなどブラジルの代表的な農産物であり輸出品目でもあるこれらの商品がレアル安にも支えられ、農業界の好景気がそのまま当社にも反映したもの」と語る中桐社長。
 売上高で過去2013年6月と2018年6月を上回る月次決算になった。お客様にはすべての分野で顧客利益の最大化と最上のサービスに力を注いできた。昨年3月以降、中桐社長は新型コロナウィルス対策として感染予防のために毎日3時間程度しか出社していない。
 こうした中で、創業期からの第1世代と第2世代、続く第3世代など、後継世代を代表する子息で中桐誠治執行副社長を中心に、全世代が一丸となって社歴に残る金字塔を打ち立てた。
 収益力の高さは経営努力の反映でもある。創業以来、会社経費の無駄を省きあらゆる部署で経費節減と経営合理化の最大化を図るという会社方針が浸透していること。ついで生産工場を持たないメーカーとして部品毎に世界最適調達を行い、自社の組立工場で完成品にするというシステムを構築した。
 人件費の大幅削減とともに、各部品は専業生産メーカーから適正価格で取り寄せることができる。創業経営者・中桐は、長年の経験や体験、カンから培われたブラジル経済の変動や変化を熟知した、桁違いの実績と実力を示している、いわばブラジルのビジネスエグゼクティブを代表する一人といってよいだろう。

農業機械や農業機器などに関するトータルソリューション会社

同社を代表するブランド 『NAKASHI』

 取扱販売製品は、農業用機械、農業機器、建設機械、芝刈機、草刈機、高圧洗浄機、コーヒー収穫機、チエーンソー、農業用噴霧機、船外機、EARH AUGER、耕運機、農業用小型トラクター、電動ポンプ、LED電球など、部品を含めて8万品目に達する。
 いわば農業機械から部品まで全伯の中堅及び中小規模農家を中心にした農業機械や農業機器に関するトータルソリューション会社と言ってもよいだろう。
 同時に国際的プラントメーカーの製品をブラジル全土に特別販売している。三菱重工 /日本 船外機、発電機、電動ポンプ、MTD/アメリカ トラクターや草刈機、INTERPUMP/イタリア 高圧洗浄機、ANNOVI・REVERBERI/イタリア 農業用ポンプやコントローラ、PFERD / ドイツ チエーンソー用やすり、FOTON/ 中国 農業用小型トラクターなどだ。
 その他、毎月、新しい製品開発の取り組みや外国企業との新規取引、新たな提携先など、数多くの事業化案件があり、月数件単位で事業化している。
 さらに自社で独自開発した主力製品である6ブランドの草刈機や芝刈り機などもフルラインで揃えている。最高級・高級・普及品のタイプ別にNAKASHI、GERAMAC, JETMAC, PULMAC、KAJIMA、KAWASHIMA、NAKALUXの6ブランドがあり、特に『ナカシ』(中桐のナカと妻・科子のシを組み合わせた)と『カワシマ』は有名ブランドになっている。
 輸出部門も実績を残している。自社ブランドのNAKASHIを2003年から中南米8か国(アルゼンチン、ウグルアイ、チリ、パラグアイ、ペルー、べネズエラ、スリナム、メキシコ)に輸出しており輸出比率は売上高比で30%に達する。

会社の歩み

 1972年12月に25歳でDIPAMA社(DISTRIBUIDORA PARANAENSE DE MAQUINAS AGRICOLAS -パラナ州農業機器販売代理店)をパラナ州シアノルテ市で創業、農業用機器と農業用小型トラクターの販売店だった。
 1980年1月9日、パラナ州ロンドリーナ市に、COMERCIAL TECNICA DE MOTOSSERAS LTDA.(称通MOTOLON社)設立、商業販売代理店、チエーンソー、およびメンテナンスと整備店を開業した。
 1982年2月1日、クリチバ市にCENTRO COMERCIAL DE MOTOSSERAS社を設立。1989年7月にロンドリーナ市のMOTOLON社を買収。
 1991年10月にCIA. COMERCIAL DE MAQUINAS CCM LTDA.社に社名を変更。
 2008年11月21日、CIA COMERCIAL DE MAQUINAS CCM LTDA.社はCCM MAQUINAS E MOTORES LTDA.社に社名を変え、CCM do Brasil社として現在に至っている。

会社成長の秘訣は全伯規模の販売ネットワークと商売の生き方考え方

大型貨物トラック8台分の配送ラインを持つ物流センター

 1972年の創業以来、一般的に考えればパラナ州クリチバ本社であれば南部3州が商圏と考えがちだが中桐は違った。事業構想力、壮大な目標、志、創造力、行動力・実行力など、持てるパワーをフル稼働させて、創業以来48年かけて全伯27州に1万社以上の販売代理店、2500社のアフターサービス店を構築した。
 「この販売網は当社最大の財産であり当社の命だ」という中桐。創業以来、このネットワークを築くために人生のすべてを捧げてきたといっても過言ではないだろう。中桐は記者にこう聞いてきた。
 「儲けるという意味を知っていますか」。
 中桐の答えはこうだった。「儲けるとは文字通り人を信用する者と書く、商売の基本は全て人と人との信頼関係であり、それは信用から始まる」。
 「CCM do Brasil社と取引すれば儲かるという仕組みと、これによってお客様・取引先・CCMの3者が共存共栄できるという確かな構図で信用の歴史を築いてきたことが最大の成功要因だ」という。

会社の品格がわかる本社ビルと物流センター

物流センターからブラジル全土に配送を待つ農業機器商品の数々

 5年前の2016年4月にクリチバから北へ向かって22キロ、カンポラルゴに本社兼物流センターがある。品性が漂うモダンな近代的な建物である。総敷地面積は8万8千平方m、総建坪面積は4万3千平方m。この物流センターは3層からなっており、1階は配送車8台分の配車スペース(ライン)と、長さ280m、縦110mの倉庫スペースになっている巨大なもの。
 建物内部は中桐の考え方を反映して5年たったいまも、隅々に至るまでゴミ1つなく、四方八方に目配りした立派なものだった。こうした社風や考え方が現在の会社繁栄にも繋がっているわけだ。(カンノエージェンシー代表 菅野英明)  


【会社概要】
 正式社名=CCM do Brasil、創業年月=1972年12月、本社所在地=パラナ州クリチバ市、代表取締役CEO社長=中桐廣文、社員数=103名。会社理念と経営信条は「農機具の生産と販売を通してブラジル農業界の発展と進歩に貢献すること」、「自社販売製品を通して農家というお客様への満足度を最大化させるという使命」を掲げている。業務内容は農機具・花卉・園芸など農業関連機器全般の生産と販売、商業、輸入、輸出となっている。


〔2020年5月15日〕穀物生産量予測、2・5億トン強で新記録更新、大豆の生産は米国を抜き輸出量とともに世界1位
〔2020年6月〕「私たちは物流システムを止めていません。(パラナ州)パラナグア港 (サントス港に次ぎブラジル第2位の貿易港) はパンデミックの最中でも輸出量の歴史的記録を更新した」とラティーニョ・パラナ州知事


 大豆やトウモロコシ、コーヒーなど世界一の生産量を誇るブラジルは米国と並ぶ世界の農業大国で、それゆえに世界的な農機具メーカーのすべてが進出しているが、この中にあってCCM do Brasil社は市場競争で堂々のトップ争いをしている。
 北部、北東部、南東部、中西部、南部と5地域に分類される移民の国であるブラジルは、米国とともに多様性と人種のるつぼといわれ、民族や宗教、言語と価値観、地域性と文化、地域で異なる商習慣などを克服し、CCM do Brasil社は与信と回収システム、納期厳守の物流配送システムなどで、業界のパイオニアとして企業価値の評価につながっている。


独自性がわかる会社の特徴

品性が漂うゆったりした本社内オフィスフロア

★生産工場を持たず完成品の組立工場に必要な部品の世界最適調達を行っている、
★草刈機を中心にお客様ニーズに沿って独自開発した6つの自社ブランド(NAKASHI、GERAMAC, JETMAC, PULMAC、KAJIMA、KAWASHIMA、NAKALUX)を持っている
★創業以来、ブラジル文化に対応した最適な会社規模を維持している
★そのために少数精鋭で経営合理化の最大化を実現し、優秀な社員を擁する会社資源で高付加価値型の経営システムを構築。
★創業以来、無借金経営を継続していること。


ブラジル経済を熟知した全天候型の会社を構築

 創業社長の中桐廣文とは。派手なパフォーマンスを追わずメディアに余り出ないこともあり知名度は低いが、戦後日本人移民の中では最大級の成功者でパラナ州が生んだ稀代の経営者でもある。
 1972年9月に結婚した科子夫人(同社財務担当最高責任者)とともに、二人三脚で事業を成功させた立志伝中の人物だ。中桐は戦後の海外移民史に残るであろう日系経営者の一人になってきた。
 日本の経済雑誌『財界』の創業者で経営評論家だった三鬼陽之助は「経営者の評価は(決算)結果で決まる」との明言を残しているが、中桐はその実績をここブラジルで築いている。
 創業以来48年間連続して黒字決算を計上していることだ。最近の具体策では、未曽有の新型コロナウィルスが発生し始めた昨年2月の初期段階に、為替レートが対米ドルレート2・25レアルの時に仕入れた2年分の農業機器の在庫を、同年上旬に4・5レアルの安値になった時に一斉に販売し大きな差益を出した。
 ブラジル経済のトレンドを見極めレアル安の時代が到来する、という確かな情報分析と決断力が実証された1件だった。この大不況下でも勝ち続ける会社経営のヒントと知恵がここにもあった。
 無借金経営で会社の体力が十分に蓄積されていることも強みだ。ブラジル経済の乱降下でも不況でも、インフレにも負けない、ブラジル型経済のあらゆる変化に即応した全天候型経営で最強の会社を構築していることが、この新型コロナウィルスの時世下でも実証されている。