(註=この稿はパラグァイのAbc Color 紙に2月26日付で載った在マイアミのアンドレス・オッペンハイマー記者の投稿記事を参考にしたもの)
日毎に、深刻化を増すグローバル温暖化の問題を論じた新刊の著者ビル・ゲイツに会って取材した際に、先ず聞かされたのは、私が期待して居なかった彼の思わぬ回答だった。
それは「気候変動により生じ得るマイアミ市の大災害」に関するもので、正に彼が著書で指摘する最初の問題だった。
ゲイツは一般的に、「海面の上昇で、例えば大洋に近い幾つかの個所が完全に水面下に無くなってしまい、マイアミ市は、今日の様相とは全然異なる姿に変わるだろう。現在望める美しい浜辺等は完全に消え去るであろう」と言う。
私は、マイアミ・ビーチの近くにあるビルに住んでいるので、これを聞いて思わず眉を顰めて、「何時頃に、そんな現象が起こるでしょうかね?」と直ちに訊き質した。
「そうですね、それは段階的に生じる事でしょう。年毎に酷くなります。ご存知の様にマイアミでは、ある気象条件によって、大洋の水位は毎年その都度上ります。そうして、今世紀末にはそれが大変ドラマチックな結果に成り得ます」と云った。
そして「私は、ご存知でしょうがマイアミ・ビーチは至って気に入って居ます。徒歩、又はビサイクルでの何れの散策でも、ここの人達のエネルギッシュなのがとても素晴らしい」と付け加えた。
それらが、何と皆無くなるのです! 悲しい事では有りませんか?
気象変動の諸問題中、これが必ずしも最も重要な一つとは限りません。しかし、我等に何かに付けて関りが生じるのです。
その著書『いかに気候災害を避けるか?』でゲイツは、グローバル温暖化に何等かの漸減対策の手を施さないと、マイアミのみならず、全世界に被害が及ぶ事になると警告している。
その為に、毎度苛酷度が増す台風、水害、山火事や大旱魃に襲われ、大量の人口移動、経済危機及び自然災害に依る死亡率が増加する。
来たる2050年度の気象変動は、現下の「パンデミア・Covid-19」禍の致死率に等しい可能性が予想され、更に2100年度には、その5倍の致死率が推定される、と言う。
現在のクリーンエネルギー源である、風力や日光力は、未だ充分では無いと言う。
これ等のエネルギー源は間欠的だからだ。風は常に吹いてはおらず、太陽もいつも照っている訳ではない。
また、需要がある時に必要なだけ入手可能な綺麗なエネルギーを、充分に蓄電できる電池も未だに開発されていない。
その上、190カ国に依り調印された、「温室効果をもたらすCO2ガスの漸減を約束するパリ協定」さえも、その目的が達せられないと、ゲイツは言う。
唯一の道は、2050年度を目途にCO2ガス発生を殆どゼロに押さえる事だとゲイツは主張する。
ゲイツは、現存の気象変動の漸減対策を、水が徐々に溢れつつある風呂桶に例え、その水を点滴程度に減らしても、いずれ浴槽の水は溢れ出してしまうだろうと云った。
そこで、石油精製業に重要な開発投資を行なっているメキシの様な国々は、将来はどうなるかとの質問に対して、ゲイツは「これから10年か15年の間に、世界の自動車市場はおおよそ電動車群によって支配され、石油又は天然石油ガスに依存している国々は儲けが期待出来なくなるだろう」と答えた。
しかし取材に応じた、多くの気象変動の専門家達は「マイアミ・ビーチは2100年頃には地図上から消え去ってしまう」とゲイツの予言を信用しない。
むしろ、専門家たちはこう見る。今何も対策を講じなければ、将来起こり得るのは、マイアミ市は今迄よりも遥かに高額な排水システムの公共大工事を行う必要が出てくるだろう。そして結局は、文句なしに市民は大変な負担の地租税を負わされる事になる、と。
この様な構図を見ると、マイアミは将来、唯一メガ富裕層の金持ちだけが住める都市になる。
それはかつて長い間、水に沈んでいたイタリアの最も生活費の高かった都市の一つベニス市の如く、アメリカ合衆国の中で、地所が一番高い街の一つになるだろうと言う事だ。
私は、美しいマイアミ・ビーチが生き残ると信じる者の一人で、またマイアミ市は決して水面下に失われたり、その地価が急騰したりする街に変わりはしないと思う者である。
ただし、「目下の地球温暖化を防ぐ努力は不充分で、日が経つに連れてその費用はいたずらに増えるというビル・ゲイツの警告に、私は賛成だ。正に時宜を得た忠告だと思う者の一人である。