サンパウロ日本移民史料館(山下リジア運営院長)は3月25日午前9時、サンカエターノ・ド・スル市立大学(USCS)で歴史学を教えるプリシーラ・フェレイラ・ペラッツォ教授からオンラインで「ブラジル日系コミュニティの文化遺産、ビデオの口述歴史(オーラル・ヒストリー)」と題する講義を受けた。同教授は口述ビデオを撮る際の注意や考え方を詳細に説明し、史料館運営委員や人文研、移民史研究者ら約20人がじっくりと聞き入った。
これは、文協65周年を記念して2020年1月23日に移民史料館の第3期工事として公開された「移民・日本文化研究センター(梅棹忠夫先生記念室)」(文協ビル3階)の、活動開始イベントとして行われた。
冒頭、渡部和夫氏は同研究センターの創立メンバーとして、その設立意義を説明。国立民族学博物館初代館長として移民史料館基本構想に関わった梅棹忠夫氏の《歴史的な古い物品を並べるだけが史料館ではない。資料を調査して研究活動ができ、歴史の真実を発掘し、新たな知識を共有するなどの活動があってこそ、本当の生きた史料館である》という言葉からきたものだと述べた。
ペラッツォ教授は、聖市近郊ABC地区住民の口述歴史を集めるプロジェクト「Memórias do ABC」の創立者で、本や新聞に残されていない庶民の生活の実像や歴史を大量のビデオや研究資料として残してきた実績がある。
「こちらが聞きたいことから話が逸脱した場合、相手の機嫌を損ねずに、いかに元に戻すかがインタビューアーの腕の見せ所」などのコツを1時間にわたって語った。
渡部氏は「すばらしい講演だった。農業、工業など日系社会のどの部分から手をつければ良いか、しっかりと議論する必要がある。実際に今、宮尾進、脇坂勝則、森幸一、大浦文雄、本山省三ら日系社会の語り部が次々に亡くなっている。彼らのような語り部の口述歴史を残すことは非常に緊急性が高い」と口述歴史プロジェクトの重要性を評価した。
同教授も「過去を知る高齢者がどんどん亡くなっていくことの残念さは、歴史の研究者の皆が共感すること。まずは語り部を列挙し、少しでもプロジェクトのスピートを上げる必要性がある。パンデミックが収束し次第、すぐに取りかかるべき」とコメントした。
聴講者からは「第2次大戦中、邦字紙が強制停刊させられていた間の歴史が欠損している。サントス強制立ち退きもその間に起きた。ぜひ口述歴史を撮る際には、戦争中のことを質問して記録に残してほしい」との要望も出た。
山下運営委員長は「ブラジル各地の日本移民史料館とのネットワークを作っている。そこでこの情報を共有し、どの地域でも口述歴史保存プロジェクトを始められるようにしたい」と締めくくった
【参考記事】
★2020年2月1日《日系社会》移民史料館=第3期工事完了、お披露目=研究センター、斎藤広志記念室=書道、折り紙など日本文化普及
★2021年1月28日《日系社会》■訃報■本山省三さん=USP教授、移民史料館館長
★2020年11月19日《日系社会》移民史料館=企業や個人に寄付募る=大型改修工事に410万レアル=ルアネー法、ProACで